AI時代の「中国の頭脳」は深センか北京か? 新旧都市の強みと特徴

深セン(Photo by China Photos/Getty Images)


エンジェル投資家の多さも北京の特徴だ。2016年の時点で、1万人以上が中関村で活動しており、中国全土の約80%を占めている。現在では、エンジェル投資家を育成する機関まで誕生しており、そこでは実務的な内容から投資家マインドの育成まで、徹底したカリキュラムが組まれている。先述のように、中関村エリアには名門大学や研究機関が多いのだが、研究段階から資金調達ができる事例も珍しくなく、ビジネス成功の確度が高いと言われている。

一方、深センの事情を端的に説明するならば、「たたき上げ」の起業家が多いという特徴がある。歴史があり「学」が積み上げられた北京とは違い、名門と呼べる大学はない。そこで深センは、「学」を呼び込むために各地の名門校の分校や研究室を誘致。外部の教育資源を取り入れることに躍起だ。教育資源に限らず、住民の約70%が外から移り住む「移民都市」というのも、深センの特徴のひとつである。

現在、外国人起業家を呼び込むことにも徐々に成功しており、その柔軟性や多様性においては北京を上回るかもしれない。言い換えれば、守るものがない都市なので、瞬発力がある。街の成長や物事が進むスピードが早く、失敗に寛容だ。その自由な風土こそが、深センの起業文化の根底にある。

中国の両都市をシリコンバレーと比較するとどうか。

シリコンバレーの特徴は、大学や研究機関が集積しており、そこから生まれる技術ベースのスタートアップが多い点。また、成功した起業家をはじめとするエンジェル投資家や、投資機関による経験共有や資金調達が可能な生態系ができているという点があるだろう。そちらの事情を中国に置き換えると、北京の方が近いと言える。もうひとつの特徴、すなわち移民文化による多様性が担保されており、かつ失敗への寛容さが自由な発想につながっている側面は深センに近い。

「中国のシリコンバレー」という表現が日本で使われることが増えてきたが、それらの特徴を踏まえればより正確な認識が可能になるかもしれない。さしずめ、北京は「中国のITもしくはAIシリコンバレー」、深センは「中国のハードウェアシリコンバレー」ということになる。

実際、中国国内でもそのような表現を目にすることが増えてきた。最近では北京と深センのインキュベーターが連携し、両都市間での人材流動も起こっているようだ。中国の2大創業都市の動きに引き続き注目していきたい。

文=川ノ上和文

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