ファッションディレクターの森岡 弘とベテラン編集者の小暮昌弘が「紳士淑女が持つべきアイテム」を語る連載。今回は、“全ての条件をクリアする”というエルメネジルドゼニアのネクタイについて。
小暮昌弘(以下、小暮):今回は、イタリア屈指のスーツメーカー、エルメネジルドゼニア(以下ゼニア)ですね。スーツだけでなく、トータルでコレクションを発表し
ていますが、あえて、森岡さんがネクタイ(以下タイ)を取り上げた理由をお聞かせいただけますか。
森岡 弘(以下、森岡):ゼニアと言えばスーツですが、ゼニアのタイは本当に締めやすいということも伝えたいんです。キュッと締まって、崩れない。いろいろとタイを見ていると、きつく締めてもすぐに緩んでしまうもの、あるいは結び目=ノットがきれいに収まらないものがあるのですが、ゼニアの場合はシュッと収まって、テンションを強くかけなくてもノットがきれいに決まるし、ディンプルと呼ばれるエクボもつくりやすい。締め心地が最高にいいのです。
小暮:同じイタリア製のタイでもハンドメイドで柔らかく仕立ててあるものは、見た目はいいのですが、逆に結び目が緩んでしまうものがありますね。ビジネスシーンで求められるタイって、締めやすくて、カタチがきれいにつくれて、ノットが緩まないことですからね。
森岡:そう考えると、ゼニアのタイは、条件を全部クリア。加えてシーズン性が強くなく、ベーシックな色や柄が多いので、季節、年月にかかわらずずっと使えるものが多いのです。
小暮:紡績からスーツという製品まで手がけ、スーツ以外のアクセサリーまでつくっているトータルブランドならではの強みですね。
森岡:ビジネススーツの基本であるネイビーやグレーに合うタイがほとんど。すごいのは、ベーシックでも地味一辺倒なものではないこと。ソリッド=無地のタイも用意されていますが、一見無地風でも同色の柄が入っていたり。だから選ぶ楽しみもあり、コーディネーションするときも控えめな個性が出しやすい。男のスタイル全体を見ながらタイもデザインしていると僕は確信しています。タイはある意味、消耗品ですが、絶対買って損はないですよ。
小暮:それが専業メーカーのタイとトータルブランドのタイの違いかもしれませんね。
森岡:カチッと仕立てているのですが、締めるとフワッとボリューミーに結べます。
小暮:ある意味イタリアの服づくり、ものづくりの基本がタイにもよく表れている。
森岡:基本のプレーンノットという結び方でタイを結んでも、ノットが立体的、艶っぽく見えるんです。