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2017.05.31 08:00

イソップ物語に学ぶ、大事なことを「伝える力」の磨き方


チャレンジしたかったのは、「障害」という言葉を使わずに、もっと言えばそのニュアンスすらも排除した上で、「障害のあるアーティストやパフォーマーの存在を、広く知ってもらうこと」です。

去年話題になった「感動ポルノ」という言葉が象徴的ですが、どうしても「障害」という言葉には典型的なイメージがつきがちです(大部分はわれわれメディアの責任ですが)。たとえば、「障害があるのにすごい」とか「障害があるのに頑張っている」とか。でも、本当は障害のあるなしは関係なく、いいものはいいし、すばらしいものはすばらしいわけです。

だから、イベントタイトルは「みんながみんな主役Night」にしました。電通のプランナーさんが雑談中にぽっと言ったこのタイトル。AIさんの大ヒット曲「みんながみんな英雄」をモジったものですが、イベントを通してみんなに伝えたかったこと、みんなでシェアしたかった感情を包み込んでいて、自分たちで言うのもなんですが、すてきなタイトルになったと思います。

アーティストやパフォーマーの出演交渉は、AIさんが一人一人にオファーしてくれました。AIさんは、去年からNHKの福祉番組「ハートネットTV」でMCを務めているのですが、その中で知り、出会い、その生き方をリスペクトする人たちに直筆の招待状を送りました。
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リオパラリンピックの閉会式のハンドオーバー(引継式)にも出演した、義足のダンサー大前光市さんと車いすダンサーのかんばらけんたさん。難病ジストニアにより3本の指が動かなくなったピアニストの西川悟平さん。ダウン症や自閉症などの障害者を含む総勢20人のバリアフリーバンドのサルサガムテープさん。圧倒的に女性が不利とされるブレイクダンスの世界で10回も世界チャンピオンに輝いたブレイクダンサーのNarumiさん。

みなさん世界の第一線で活躍されているアーティストとパフォーマー達ですので超多忙です。全員の出演は正直難しいかなと思っていましたが、「武道館で、AIさんとセッションできるなら!」とノリノリで快諾してくださいました。

そして迎えた当日。イベントはむちゃくちゃ盛り上がりました。多くの人が見たことがなかったであろう、義足のダンサーの力強い舞いや車いすを使った妖艶とも思えるダンス。7本指のピアニストとAIさんの「STORY」の共演に涙腺崩壊する人続出、バリアフリーバンドの打ち鳴らすロックに会場が総立ちになりました。本当に、総立ちになったんです!

僕はその様子を会場の後ろから眺めていました。で、こういうやり方ってあるんだって改めて思ったんです。障害とか多様性とかわざわざそんなこと言わなくたって、しっかり伝わるんだなぁって。

太陽方式には様々なやり方があると思います。僕は、その一つの切り口としてエンターテインメントというのはすごくありだなと感じています。最近、増えてきましたよね。くまモンをはじめ、地方自治体が実施する地方振興策にエンターテインメント要素はもはや必須なんじゃないかと思うほどです。

僕は自戒を込めて思うのですが、大切なテーマで、大事な問題で、それを伝えたいと思うのであれば、やはり伝え方をもっと真剣に考えなければいけないんですよね。「大事な問題だから、きっとみんな聞いてくれるはずだ」というのは伝える側の思考停止だし、おごりだったんだと最近になって気づきました。

僕の好きなYouTube動画に、鹿児島実業高校の男子新体操部の動画っていうのがあります。インターハイ常連の名門校ですが、とにかく演技がエンターテインメントなんです。その年に流行った曲を使って、笑いと新体操の技を融合させている。彼らの動画は何百万回も再生されています。

その鹿児島実業高校の男子新体操部が大事にしていることが「全力でふざける」なんだそうです。確かに。全力でふざける方が伝わることもあるのだと思います。

と、ここまで書いてふと思ったのですが。この原稿は、きちんと太陽方式で書けているのでしょうか。相変わらずの北風方式になっていないか…みなさん、季節はもうすっかり春です。コートを脱いで頂けていれば幸いです。

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文=小国士朗

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