ビジネス

2017.05.31

イソップ物語に学ぶ、大事なことを「伝える力」の磨き方

2016年11月、日本武道館で行われた「みんながみんな主役Night」にて(photographed by LESLIE KEE)

大事なことが伝わらない。いや、大事なことほど、なぜか伝わらない──。誰もが、そんなもどかしい思いに身をよじらせたことが、一度や二度はあるのではないでしょうか。

最近でいえば、国が大号令をかけている『働き方改革』。社内に向けて「残業をしないで早く帰ろう!」と必死で音頭をとっているのになかなか浸透しない(どこの会社とは言いませんが、多くの職場でありそうですね)。

あるいは、『人材育成』。マネージャーが「若い人材のやる気に火をつけよう!」と気勢をあげているその会議中から、どんどんシラケて無表情になっていく若者たち(これもどことは言いませんが、多くの企業の管理職が悩む場面だと思います)。

おかしいな、なぜだろうな。誰もが大事だと認めることなのに、どれだけ気持ちを込めて伝えてもぜんぜん伝わらない──。

ちなみに僕はNHKで働き始めてから今までの10数年間、ずっとこの「大事なことが伝わらない」問題に悩まされ、身をよじらせ続けてきた、いわばこの分野のベテランです。

救急医療、保育、児童虐待、派遣労働、インフラの老朽化……様々な社会問題を取材し、番組にしてきましたが、どうにもこうにも手ごたえがない。時には「世の中のリアクション薄すぎ…」と世間に責任転嫁をしはじめる始末です。そんな僕は、番組の放送前後で何かが変わった、という実感をまるで持てないまま、ただただ身をよじっているばかりでした。

もちろんたった1本の番組を作ったくらいで、何かが変わるほど世の中はおめでたいわけではありませんし、僕自身の番組制作能力の問題がおおいに関係していたのは間違いありません。でも、僕としてはもどかしくて仕方がないんです。だって、ものすごい量の取材をして、時には世間の多くの人がまだ気づいていない大問題を、誰よりも早くキャッチしていることだってあるわけです。どうにかして多くの人にその問題に気づいて欲しいじゃないですか。

なのに、僕の番組ときたらなかなか見てもらえない、そして世の中に大きな関心を喚起することができない。自分の力のなさに情けなくって本当に泣けてきます。取材を受けてくださった方たちにも申し訳なくって仕方がありません。

でも、大人ですし、ずっと泣いているわけにもいかないので、僕は真剣に考えました。どうしたら「大事なことを伝えられる」のだろうと。そしてこの1、2年、様々な試行錯誤を積み重ねて、ようやく、ほんのちょびっとだけではありますが、突破口が見えてきたのです。

キーワードは、「北風より、太陽」です。イソップ物語の「北風と太陽」の話は有名ですよね。僕はもちろんずっと「北風」だったわけです。この問題は大事だぞ~、大事だぞ~と言っているばかりで、リビングでテレビを見ている人の気持ちをまるで考えていなかった。視聴者も、深刻な問題をただ深刻に伝えられても、「いや、それ大事なのわかったから…」って、ちょっと引いちゃってたのかもしれませんよね。

ですから大切なのは伝え方です。北風方式ではなく、太陽方式で伝えることがポイントです。でも、太陽方式って具体的に何をどうやったらいいんでしょうか? そこで、去年11月、僕は1つの実験をしてみました。

やったのは「みんながみんな主役Night」。武道館を舞台に、アーティストのAIさんと障害のあるパフォーマーやアーティストが、一夜限りの“夢のセッション”をするというイベントです。僕は企画を担当するディレクターとして、AIさんや電通のプランナーさんたちと一緒に企画を練り上げていきました。
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文=小国士朗

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