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2017.05.28

トランプ一族の「アウトサイダー」 投資家ジョシュア・クシュナーの誤算

スライブ・キャピタル創業者ジョシュア・クシュナー(写真=ジャメル・トッピン)


そしてジョシュアは、ハーバードのすぐ近くに社屋を構えるゼネラル・カタリスト・パートナーズの共同創業者、ジョエル・カトラーの目に留まる。カトラーはジョシュアに投資ファンドを立ち上げるよう熱弁した。

「この若者に金を預けないなんてどうかしている、そうみんなに触れ回った」と、カトラーは言う。「うまくいかなかったら私が穴埋めするから、と」。

その必要はなかった。09年、ジョシュアは友人や家族から集めた500万ドルを元手にスライブを立ち上げ、翌年にはプリンストンなどの大学基金から4000万ドルを得た。彼はハリーズやワービー・パーカー、そしてインスタグラムに迅速な投資と包括的な支援を行っていく。

そして、12年のインスタグラムのシリーズBの資金調達では、セコイアやグレーロックなどの大手VCを向こうに回し、スライブの名を大いに売った。

「彼は金を投資する1年も前から、ウチに時間を投資していたんだ」と、シストロムは言う。「ジョシュアの我々へのコミットメントの強さと戦略的な思考は、その立派な家柄なんかより、ずっと物を言ったよ」。

カトラーはこう言い添えた。「インスタグラムへの出資は激しい争奪戦になったが、創業者ふたりは『何があってもジョシュアには出資させる』と言ったんだ」。

その日、5億ドルの企業価値をつけたインスタグラムは、わずか数日後、フェイスブックに買収される。その額10億ドル。1週間も経たず2倍のリターンを叩き出したのだ。

これを契機に、スライブの資金は急伸する。12年に1億5000万ドル、14年に4億2000万ドル、16年夏に7億1500万ドルを積み増し、運用総額は15億ドルに達した。 

ジョシュアが直接誕生から手がけたオスカーなどを見れば分かる通り、スライブは創業期の支援に積極的だ。「徹底してともに汗をかく」ジョシュアへの信頼は、ワービー・パーカーの共同創業者ニール・ブルメンサルの言葉にも見てとれる。「我々はスライブを仲間だと思っている。どのVCもパートナー兼友人になろうとする。でも、本当にそうなることはまれだ」。

天才投資家の誤算と勝算

ある週、ジョシュアは中国のIT業界の指導者たちと年に1度の情報交換を行うため、訪中する予定になっていた。彼はそれをキャンセルしたのだが、あとから振り返れば賢明な決断だった。
 
というのも報道によれば、中国のコングロマリット「安邦保険集団」が、クシュナー・カンパニーズの旗艦ビルである「666フィフス・アベニュー」に4億ドルを投資する可能性があったからだ。誰もが想起するのは、安邦保険集団はホワイトハウスに媚びを売るために好条件の契約を提示しているのではないか、ということだ。「大統領の側近の弟」に対する見方は、自然と厳しくならざるを得ない。
 
利益相反の問題は、今やジョシュアの日常だ。2月、クシュナー家がジョシュアを前面に立ててマイアミ・マーリンズの買収に乗り出したときは、オーナーのジェフリー・ローリアがトランプ政権の駐仏大使の候補者だったことから、メディアは大騒ぎした。
 
この種の問題を回避するには、一流弁護士が必要だ。リベラルな弟ジョシュアが共和党員を雇ったのに対し、トランプの側近である兄ジャレッドは、民主党員(クリントン政権の司法副長官だったジェイミー・ゴアリック)を選んだ。

「誰から金を受け取るかと、誰と一緒に仕事をするかは、シリコンバレーでもよく議論される一種の政治的テストだ」と、アンドリーセンは言う。「とはいえ、兄貴との関係を理由にジョシュアから金を受け取るのをためらった人間は、まだ見たことがないな」


ジョシュア・クシュナーと恋人のカーリー・クロス(Photo by James Devaney/gettyimages)


ジョシュア・クシュナー◎投資家、アントレプレナー。1985年、米・ニュージャージー州生まれ。ハーバード大学卒業後、ゴールドマン・サックス、ハーバードビジネススクールを経て、2009年に投資会社「スライブ・キャピタル」を設立。インスタグラムへの初期投資で注目を集める。オンライン医療保険会社「オスカー」ほか、アントレプレナーとしても有名。

スライブ・キャピタル◎2009年、ジョシュア・クシュナーによりNYに設立。運用総額15億ドル超。プリンストン大学、ウェルカム・トラストなどの機関投資家から2億ドルを調達。フェイスブックによる買収直前のインスタグラムへの出資で一躍有名に。トゥイッチ、ワービー・パーカー、ギットハブ、スポティファイ、ストライプ、スラックなど、有望スタートアップの初期投資で知られる。

文=スティーブン・ベルトーニ 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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