ビジネス

2017.05.28

トランプ一族の「アウトサイダー」 投資家ジョシュア・クシュナーの誤算

スライブ・キャピタル創業者ジョシュア・クシュナー(写真=ジャメル・トッピン)


トランプ政権誕生100日目が近づくにつれ、ジョシュアの状況はさらに悪化した。共和党はオバマケアの撤廃と代替案の導入に失敗した。だがトランプは直ちに長期戦で臨む考えを表明し、ツイッターにこうつぶやいている。

「オバマケアは破綻する。しかし、我々が国民のための偉大な医療保険プランを作りあげる。ご心配なく!」

大統領であるトランプは、この予言を実現できる。企業価値27億ドル、莫大な資金と時間を投じたオスカーだが、ジョシュアは身動きの取れない状態に置かれている。

クシュナー家が生んだふたつの才

クシュナー兄弟の反目は今やハリウッド映画のネタになりそうなレベルに達し、その舞台も国政へと広がりつつある。

弟は、ワシントンのウィメンズ・マーチ(トランプ大統領就任に反対するデモ行進)にも参加し、オバマケア時代を代表するスタートアップ企業の側につく。一方で兄は、スティーブ・バノン首席戦略官の方針を受け入れ(もしくは、軟化に失敗し)、オバマケア時代を何としても終わらせようとする陣営に与している。

兄であるジャレッドは、多くのチャンスを与えられ、その王道を歩んできた。脱税などで刑務所に送られた父親チャールズから、20代半ばで家業の不動産帝国を引き継いだ。また、義父トランプからは大統領選の指揮を任され、最終的には彼をホワイトハウスに送り込んだ。そしていま、世界有数の影響力を手にしている。

その点、弟ジョシュアは「自立の人」だ。ファミリービジネスの安逸なポストに背を向け、自ら道を切り拓いた。「スライブは創業後、最短の軌跡をたどってトップクラスのステータスに躍り出た」と、投資家のマーク・アンドリーセンは称える。

ジョシュアはスライブを通して、インスタグラムに加え、トゥイッチ、ワービー・パーカー、ギットハブ、スポティファイ、ストライプ、スラックなど、この10年間でベストといえるスタートアップに出資を行った。またオスカーをはじめ、メープル、カプセル、シーダーなど5社以上を共同創業もしくはインキュベートしている。

インスタグラムのケヴィン・シストロムCEOはジョシュアをこう評する。「彼は破壊的な起業家だね。手がけたビジネスがたまたまVCだっただけだ」。

クシュナー兄弟はともに、ニュージャージー州の裕福な家庭で育った。ふたりとも、いずれは家業に加わることを念頭に、ユダヤ系の私立学校からハーバード大学に進んだ。

だが、兄ジャレッドが不動産ビジネスを引き継いだころ、4歳下のジョシュアはハーバードのキャンパスで、同世代かつ同窓であるマーク・ザッカーバーグの成功を目の当たりにする。ジョシュアはすぐにスタートアップを2社創業(うちひとつは現在ブラジルで最大のソーシャルゲーム会社「ボーストゥー(Vostu)」)。卒業後はゴールドマン・サックスのディストレスト債部門に1年間勤める。ハーバードビジネススクールに入学したあとはVCに関心を寄せ、伝統の夏季インターンシップに参加するかわりに、キックスターターやグループミーなどにエンジェル投資を行っている。

クシュナーの両親は、こうした行動をまるで理解できずにいた。「最初の3年間、母は僕がPCの修理をしていると思っていたんだ」と、ジョシュアは笑う。
次ページ > コミットメントの強さと戦略的な思考

文=スティーブン・ベルトーニ 翻訳=町田敦夫 編集=杉岡 藍

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事