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2017.05.27

「安売りはしない」 岐阜県、ミラノサローネ出展の舞台裏

ミラノのブレラ地区にあるギャラリースペースを使って開催された。展示などの構成もアトリエ・オイが担当しており、洗練された空間をつくることでGIFUのイメージを高めている。

ミラノサローネは世界的な家具メーカーや著名デザイナーが、新作やクリエイションを発表する場であるが、日本の地方自治体もミラノで存在感を示していた。岐阜県の「CASA GIFU II」で指揮を執るのが、知事の古田肇だ。

「岐阜県はモノづくりが盛んです。恵まれた地域資源に匠たちがその技術で命を吹き込み、木工、刃物、和紙、陶磁器などの美しい産業を育んできました。その魅力を海外に伝えるには、どんなものが現地で喜ばれ、売れるのかという目利きの力が大切で、商品の開発にも現地目線を取り入れることが必要です。そこに、世界的に著名なデザイナーの力を活用したいと思いました。

実は以前、海外の方へ飛騨春慶塗の美しいお弁当箱を贈ったことがあるのですが、『弁当箱として使うのはもったいない。宝石箱として使います』と言われ、はっとしました。私たちが慣れ親しんできた使い方だけではなく、海外ならではの用途、デザインへの着想が、新たなビジネスを生むのだと感じたのも一つのきっかけです」

そこで起用されたのが、アトリエ・オイ。ルイ・ヴィトンなどのビッグメゾンとのプロジェクトも多いスイスの超一流のデザイン会社である。彼らは何度も岐阜に足を運び、日本の伝統や地方の個性に興味を惹かれた。

アトリエ・オイのパトリック・レイモンは、スイスの片田舎で製造されているにもかかわらず世界的なブランドとなったグリュイエールチーズのように、工房の規模は小さくとも、エリア自体をブランド化すれば、世界中に魅力を伝えられると考えた。

「昨年のミラノサローネに参加しようというのは、アトリエ・オイからの提案でした。実はミラノ万博からも参加要請があったのですが、それではたくさんある県の中の一つにしかなれない。それよりも規模は小さくても、自分たちで自由にやる方が効果的だと考えたのです。

ミラノサローネの後には、県内木工企業と世界最大手のブランドがコラボレーションに向けて動きだすなど、“メイド・イン・岐阜”が世界と肩を並べられるという自信を持ちました。

今回は、関の刃物を産地の歴史や文化と合わせてご紹介しましたが、商品そのものにだけでなく、地域へも高い関心が集まりました。モノとそのストーリーをパッケージで発信することで、魅力が一層高まるように思います。また、『Honsekito“本関刀”』が代表するように、いにしえから受け継いできた伝統技術と世界の潮流を捉えたデザインとの出会いは、伝統工芸の可能性を無限に広げたのはないでしょうか」


今回のメイン展示は、関の刀匠である26代藤原兼房、長谷川刃物とアトリエ・オイのコラボレーション商品である「Honsekito」。780年以上続く刀作りの伝統と西洋文化を融合させた。商品化の際は、拵(こしらえ)部を飛騨牛の革とピンクゴールドで装飾する予定。

関市の刃物技術は、既に世界的な名声を得ており、例えばドイツの刃物の街ゾーリンゲンの製品は関市の業者がOEMで製造している。つまり品質レベルは最高峰。だから安売りはせず、ブランド価値を高める戦略を練った。

世界的デザイナーの起用やミラノサローネへの参加は、地場産業をブランド化し、特別な地位を築くためなのだ。


世界的知名度を誇る関市の刃物も展示。18社94点の商品は全てアトリエ・オイがセレクトした。

「本県では、地域が持っている底力を、一つ一つ丁寧に掘り起し、磨き、発信するという取り組みを続けています。モノづくりについても、県産品の魅力をデザインの力で一層磨き上げ、国内外へ広く発信していきたいと考えています」

都心部には名産品を取りそろえる地方自治体のアンテナショップがいくつもあるが、岐阜県のアンテナショップは国外にある。現地の人気セレクトショップと組んで展開するグローバルアンテナショップ(GAS)は、パリやニューヨーク、シンガポールなど、世界7店舗を展開している。

「TOKYOは誰でも知っていますが、GIFUは知られていない。だからこそ先入観抜きで製品を見てもらえる。これからの時代は、世界に突き抜けなければ生き残ることはできません」

GIFUは、ミラノから世界へ広がっていく。


古田肇◎岐阜県知事。1947年、岐阜市生まれ。東京大学法学部を経て通商産業省(現・経済産業省)に入省。フランス留学やJETROニューヨーク産業調査員などを経験し、2004年に退職。05年2月に岐阜県知事に就任し、現在4期目。「清流の国ぎふ」をブランドイメージとして、国内外に岐阜県の魅力を伝える。

Edid&Text by Tetsuo Shinoda Photo by Mitsuya T-Max Sada Portrait by Yoshinoro Eto

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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