エアビーアンドビー創業者を輩出 「美大のハーバード」の意外な授業

「メタル」の授業を行う部屋で、学部長のチャーリー・キャノンと高瀬文子。高瀬はデザインスタジオ「Observatory」の共同設立者でもあり、インダストリアルデザイナーとして数多くの賞を受賞している。


大学院の教室ではサステイナブル・デザインがテーマの「育てるプロダクト」のプロトタイプである「スプーン」を見せてもらった。

野菜を育てる経験が環境に興味を持つきっかけとなることに着目。センサーによって感知された日照時間や天気の情報が、育つスピードや角度に影響を与えるため、太陽の動きに合わせて鉢を移動すると、成長速度が速くなる。スプーンを植物のように育てることで、人々の環境に対する行動変容を促す、実験的な作品だ。

そのほかにも、MUJIのアメリカでのビジネスモデルを考える学生、新しい靴をつくる学生など、みな自分のプロジェクトを夢中になって語ってくれた。


太陽によって“育てられた”スプーン。日照時間などのデータから柄のかたちが生成され、3Dプリンタで出力。

実際にRISDの卒業生は幅広い分野で活躍している。自らビジネスをスタートアップする人、スタートアップに参加する人、ディズニーやNASAなどの大組織でインハウスデザイナーになる人もいれば、デザインコンサルで働く人までさまざまだ。

卒業生のひとり、NYのスタートアップ、リトルビッツ(littleBits)でデザイナーとして働くライアン・マザーは「RISDで学んだことで、一番役に立っているのは『comfort with ambiguity』」と言う。日本語に訳すなら「曖昧さを心地よく感じること」。それは明確な答えがない中でも課題に取り組む能力のことだ。

今でこそ時代の寵児のように語られるエアビーアンドビーも当初はまったくうまくいかなかった。利用者も伸びず、宿を提供するホストからもクレームがくるばかり。RISDの卒業生であり創業者のブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアはインターネット企業の典型的な動きとは逆に、実際にユーザーに会ってどんな点を改善すべきか意見を聞いたという。

うまくいっている宿とそうでない宿を一つひとつ丁寧に比較し、プロの写真家が提供物件を魅力的に撮影するサービスを導入。絶望的な状況を脱するブレイクスルーとなった。彼らがRISDで培った曖昧な課題に立ち向かう力が役に立った好例だろう。

「未来の課題はメタルシートのように目の前に横たわっています」と、キャノンは言う。「それをただのメタルシートだと思うか、それを使って新しいものをつくろうとするか。それがRISDの学生たちの特徴であり強みなのです」。

Thinkingだけではメタルシートはメタルシートのままだ。MakingとThinkingを行き来しながら、目の前の状況に対して自分なりにアプローチする。それができる人は、目の前に横たわるメタルシートから、可能性を見出すことができるのだ。これこそがRISDで得られる稀有な能力であり、変革し続ける世界で生き残るのに最も必要な能力だろう。


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ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン◎女性に選挙権がなかった1877年、ロードアイランドの女性たちによってRISDは設立された。その歴史から多様性の文化をもち、アメリカの美大ではリーダー的存在である。学生数は約2500人。卒業生はデザイナー以外にも、起業家、映画監督、ミュージシャン、小説家などさまざまな職種に就いている。

鳥巣智行◎電通総研Bチーム所属。SoftBank「Pepper」の会話システムや、森永製菓「おかしな自由研究」の商品開発を行う。「マジックワードカード」など、アイデアのつくりかたを開発中。[電通総研Bチームの連載はこちら

坂巻匡彦◎プロダクト・デザイナー。KORGで商品企画室長として「kaossilator」や「littleBitsSynth Kit」を手掛け、電通へ。千葉大学、奈良女子大学などで非常勤講師。

文=鳥巣智行、坂巻匡彦 写真=OGATA

この記事は 「Forbes JAPAN No.36 2017年7月号(2017/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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