東京のロシア大使館について、第三国の大使館員からこんな話を聞いたことがある。
「ロシア側の大使館員と情報交換のため接触した時、『なんで携帯電話を持って来たんだ!』と怒られたよ」
彼はこう弁明した。
「いや、携帯電話の電源は切ってある」。
だが、ロシア大使館のおそらく情報当局と思われるその人物は、「電源を切っていても、位置がわかるだろ!」と呆れたという。真偽は不明だが、携帯電話の電源を切っていても所持していれば、どこにいるかがわかるのだそうだ。
さらに、いつ会うかという連絡にも符牒があった。例えば、「5月30日に西新宿で会おう」と連絡を取り合った場合、「30日」という数字から「マイナス5」と決めておく。そうすると、接触情報を事前に察知されても、実は25日に会い、30日に行動確認にやって来た連中を煙に巻くことができる。
つまり、それだけ慎重であり、必死なのだ、ふつうは。
小泉政権時代、小泉首相が靖国神社を参拝するという情報をいち早くキャッチしたのは駐日中国大使館だった。首相官邸内でも参拝は首相の側近しか知らない極秘事項である。だが、首相の側近が事前打ち合わせのため靖国神社に入るところを、中国大使館の職員たちが自転車で追いかけて確認。マスコミよりも早く、首相の参拝を確信し、本国に知らせたのである。
国家に雇われた人々は情報収集のためにこのくらいのことは体を張ってやる。
それを知っているはずのフリン前大統領補佐官は、よほどホワイトハウス入りに舞い上がっていたのか、あるいは何かが欠落しているのだろう。
5月16日、米メディアは一斉にトランプ大統領が、イスラエル政府から提供されていた機密情報を、ロシアのラブロフ外相やキスリャク駐米ロシア大使に漏らしていたと報じた。
イスラエルの機密情報はテロ情報と言われているが、それがどのレベルのもので、どの程度の確度のものか、ここでは判断できない。しかし、おそらく一つの情報を獲得するために、何人ものエージェントが危険な橋を渡り、あるいは殺されたり消息を絶ったりしているかもしれない。
そう思うと、フリンといい、トランプといい、行動が無邪気すぎる気がしてならない。「トランプ大統領はビジネスマンだから取引がうまい」という声をよく聞くが、それが事実だとしても、何かが抜けているのではないか。ロシアゲート報道を見ていると、そう思えてしまうのだ。