ブロックチェーンで「オフィスも社員も不要」になる?

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あなたの著書によると、イーサリアム開発などを行うニューヨークのブロックチェーン系ベンチャー、コンセンシスは、ヒエラルキーのないコラボレーション型経営方式「ホラクラシー」を採用し、スマートコントラクトによる自律分散型組織を目指しているそうですね(注:イーサリアムは、スマートコントラクト構築のためのプラットフォーム)。テクノロジーは、人間によるマネジメントに終焉をもたらすのでしょうか。

いや、終焉が訪れるわけではない。要は、人間とAIがコラボレーションして価値を生み出す際に、新しい形の経営が必要になるということだ。横並びの分散型組織では、仕事は自律的に行われる。経営陣が不要になると仮定するのは時期尚早だが、役割が変わるのは確かだ。権限の委譲や社内政治といった従来の企業の特色が薄れる。

マネジメントのプログラム化は、人間の弱点や、自己の利益を追求するあまり、反組織的リスクを取る社員のモラルハザードを排除できる。スマートコントラクトや、プログラム化された指示に合わせて自ら行動するソフトウェア「自律エージェント」を使えば、人間の感情や弱みを排除・制限し、意思決定を行える。その結果、経営の効率性が高まるかもしれない。

コンセンシス(ConsenSys)は分散型経営という斬新的なビジネスモデルの草分けだが、未来の組織の形をすべて具現化しているわけではない。さらなる進化の可能性としては、顧客・社外パートナーとの契約から社内の福利厚生まで、すべてをスマートコントラクトと自律経営にゆだねることなどが挙げられる。最先端企業だけに、すでに実現しているかもしれないが。

次世代企業の一例として、ICOで資金調達し、コンセンシスと提携関係にあるSingularDTV(シンギュラーDTV)も挙げられる。ブロックチェーンによる分散型エンターテインメント・デジタルコンテンツの制作配信・管理プラットフォームの開発などが主な業務だ。

あなたが本のなかで描いている企業の未来図では、自律エージェント、つまりソフトウェアが意思決定を行い、仕事を進め、管理職も不在です。現時点では「SFの世界に近い」と書かれていますが。

いつ実現するかはわからないが、テクノロジーの進化は加速する。未来は予言するものではなく達成するものだ、とだけ言っておこう。自律エージェントが三式簿記会計や経営を行うDAOの世界では、会計士も管理職も今ほど必要なくなるだろう。

新テクノロジーによる破壊は、雇用だけでなく、既存企業にも及ぶ。問題は、従来の枠組みに慣れた企業のリーダーが、この新しい世界を受け入れるかどうかだ。自動車メーカーがウーバーを生み出せなかったように、抵抗する者は敗れる運命にある。既存企業は、自社を破壊する覚悟で変革に臨み、変化に抵抗するという「イノベーターのジレンマ」に陥らないようにすべきだ。

これからの時代、進んで順応しようとする姿勢が、企業にとって最も重要な属性の一つになろう。


アレックス・タプスコット◎投資銀行での実務を経て、現在ブロックチェーン関連ビジネスへのアドバイザリーを行うノースウエスト・パッセージ・ベンチャーズ社創業者兼CEO。ブロックチェーン時代の若手オピニオンリーダーとして「タイム」誌や「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌をはじめ、多数の有名メディアに寄稿。カナダのトロント在住。

文=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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