ブロックチェーンで「オフィスも社員も不要」になる?

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ビットコインに使われる分散型台帳テクノロジー「ブロックチェーン」が、企業・組織の在り方を一変させる──。

そう語るのは、『ブロックチェーン・レボリューション──ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか』の共著者で、カナダのトロントに住む若手起業家、アレックス・タプスコットだ。次世代の企業のあるべき姿とは何かについて、タプスコットに語ってもらった。


─まず、ブロックチェーンが組織の在り方をどう変えるのか、教えてください。

組織の体系や機能を一新させる。ブロックチェーンは、「第2世代のインターネット」の代表格であり、IoT(モノのインターネット)や自動化、ビッグデータなど、重要な新トレンドを支えるパワフルなテクノロジーだ。第2世代とは、ウェブやモバイルなど情報のインターネットから、ブロックチェーンを基にした「価値のインターネット」への移行を指す。

世界中の個人や企業、機関がP2Pで商取引を行い、価値を生み出す世界を想像してみてほしい。信頼構築や取引の調整を、中央集権化された仲介機関に任せる必要もなくなる。お金の移動だけでなく、価値の移動・保存・管理や取引、交渉、契約の実行、信頼の構築まで、すべてが自分たちの手にゆだねられるのだ。

『ブロックチェーン・レボリューション』に未来のビジネスモデルとして登場する「スマートコントラクト(自律的契約)」や「自律分散型組織(DAO)」とは、どのようなものですか。

ブロックチェーンは、ビットコインに使われる分散型台帳テクノロジーだがスマートコントラクトとは、当事者間の契約条件を再現し、取引の実行や支払いのための価値の移動を(ブロックチェーン上で)自動的に遂行するソフトウェアのことだ。弁護士や銀行などの仲介機関も不要になる。これが実用化されれば、金融界に大変革が起こる。株式や債券などの金融サービス・資産の大半は、それ自体が契約形態の一種だからだ。

スマートコントラクトで取引コストが大幅に削減されれば、新たなビジネスモデルも生まれる。企業にとって最大の負担である、外部の業者などとの取引コストを抑えることができれば、人を雇って社内で業務を行う必然性がなくなるからだ。

もちろん、第1世代のインターネットの誕生も、企業に変化をもたらした。通信コストや、社外の業者を探してコラボレーションするコストが下がったことで、1990年代には、自社の根幹を成す事業に専念し、その他は外部委託することが米企業のマントラ(スローガン)になった。

だが、企業の形態は、さほど変わらなかった。企業にとって最大の負担は、通信コストなどでなく、取引や交渉、契約実行、信頼構築のコストだからだ。スマートコントラクトで、こうしたコストが激減すれば、新しい形の企業形態が可能になる。人間と人工知能(AI)がコネクトし、従来の企業がやっていることの多くをスマートコントラクトが実行するDAOだ。

取引や交渉、契約実行、信頼構築がネットワーク上で行われるため、オフィスも従来の社員も必要ない。人間が介在するにしても、ネットワーク上で緩やかにつながるだけだ。契約条件はスマートコントラクトと自律化のコラボレーションで実行され、経営陣の役割や行動も、企業の目的などに合うようにプログラム化される。

著書の執筆当時、こうしたアイデアは仮定の話でしかなかったが、この1年で多くの新型組織が生まれている。2016年には、クラウドファンディングで巨額の資金を調達したDAO、「The DAO」が注目を集めた。ブロックチェーン業界への投資を目的とする、スマートコントラクトが複数集まった、プログラムによって半ば自動的に運営される組織だ。

興味深いことに、こうした新型組織は組織だけでなく、資金調達の形も変えた。彼らがICO(仮想通貨による資金調達)で集めた資金は昨年、2億ドルに達している。世界中の何百万人という投資家が、スマートコントラクトによるP2Pの大規模なICOを行えば、VC(ベンチャーキャピタル)も投資銀行も不要だ。今年は、自律的スタートアップが、ICOでさらなる資金を集めるに違いない。資本主義の歴史に残る年になるだろう。

財務や会計など、各部署のルールも変わる。複式簿記に加え、取引がスマートコントラクトなど分散型台帳にも記録され、三式簿記会計システムが採用されれば、規制当局や監査会社がリアルタイムで企業活動を確認できる。人間がかかわる余地が少なくなり、財務部のルールが一変する。
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文=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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