科学の知識が不可欠なポストだが、クロビスは関連する資格も経歴も全く持たない。クロビスは政権移行チームのメンバーにも入ったトランプの側近で、農務省の新長官が承認されるまで、「トランプの目と耳」になるためとして、長官代理を務めていた。
プロパブリカが報じているとおり、クロビスは出身州のアイオワで地元ラジオ局のトーク番組の司会を務めてきた。2014年には上院議員選に出馬、落選している。大学での専攻は政治学。大学院で経営学を学んだが、科学論文を発表したことはない。
一方、トランプがクロビスを起用すると見られる農務省の研究・教育・経済(REE)担当次官は、農務省をはじめその下部機関である国立食糧・農業研究所(NIFA)などが実施、または支援するさまざまな科学研究に責任を負う。
そして、農務省の研究プログラムを監督するためには、生物科学に関する高度な専門知識が必要だ。科学者ではない人物には、どの研究が順調に進んでいるのか、どの問題についてさらなる研究が必要なのかなどについて判断するための根拠となる基準がない。科学者でなければ文字通り、そうした選択を行う「能力を持ち得ない」のだ。
また、科学者ではないリーダーは、研究に関する優先順位を科学の専門知識に基づいて決めることができない。自分自身の優先順位によって、それを決めることになるだろう。クロビスの場合はその経歴から考えて、自らの保守的な政治的目標に基づいて、優先順位を決めることになるのだろう。
不適任者は腐敗を招く
REE担当の前次官は、アイオワ州立大学農業学部の元学部長で、人間栄養学の博士号を持つ人物だった。現在の次官代理は生態学の博士号を取得しており、これまでにも森林局や自然保護団体ネイチャー・コンサバンシーでの要職など、科学関連のさまざまな職務に就いている。REE担当次官として向き合うどの科学関連の問題においても、クロビスはどちらの博士の能力にも遠く及ばないはずだ。
クロビスは農務省で働く何千人もの科学者たちが何をしているのか全く理解できない。それにもかかわらず、その人物が同省の科学者たちのトップに立ち、彼らを監督することになるかもしれない。トランプが他の誰かを指名する、または連邦議会上院がクロビスの承認を拒否することもないとは言えないが、可能性は低いだろう。
不適任な人物がリーダーになった場合、その部下にも不適任な者たちが登用される。トランプがクロビスを起用しようとすることは、トランプの無能さを示す最初の例ではない。さらに、これが最後になるとも思えない。
クロビス(とその他の同様の人物)の任命がもたらす最大の危険は、不適任者は腐敗の原因となり、腐敗を助長さえするということだ。自らの率いる組織の使命を理解せず、尊重もしないため、彼らは何であれ個人的な目標のために行動するからだ。
米国の法律は、REE担当次官は次のような人物から選ばれることと規定している──「農業に関連する研究、教育、経済学の分野で、専門的または意義深い経験を持つ優秀な科学者」
サム・クロビスは、この条件に該当する人物ではない。だが、トランプはそれも全く意に介さないようだ。