グラフを見ていただきたい。トヨタ車の国内販売台数が96年から減少しているのに対して、高知市にあるネッツトヨタ南国の販売台数は逆に、02年から伸び続けている。注目すべきは、ネッツトヨタ南国が逆境にある点だ。
高知県は全国でもっとも早く、90年に人口減少に転じた。高齢化率が高く、県民所得は全国ワースト2位。同社の創業は高知市の自動車販売では最後発の80年。つまり、顧客の開拓が困難な状況にありながら、グラフの結果を導いている。
その答えが、「社員第一主義」にあると聞き、さっそく高知に飛んだ。
「フロアの椅子が足りなくなるんです」と苦笑しながらショールームを案内するのは、ビスタワークス研究所の代表、大原光秦である。カフェテリアのように椅子とテーブルがあちこちに配置されているが、座りきれないほど客が訪れるという。大原は89年にネッツトヨタ南国に入社すると同時に、採用業務を任された。現在も同社の採用や育成に従事しながら、その20年の経験をもとに、10年にビスタワークス研究所を分社・設立した。
「創業時、会社の規模も従業員数も少ない上、多くの方は車を買う店を決めている。そうした状況から訪問販売をせずに、来店型でいくことになりました。一人のお客様にいろんなスタッフが対応できます。ショールームのあり方や接客方法など工夫と改善を重ねていきました」
こうして同社は、全国のトヨタ販売会社でCS(顧客満足度)1位となった。焼き畑農業のように新規顧客の開拓を目指しても、営業部員の徒労に終わることが多い。だから、一人の顧客と一生つきあえる「生涯顧客化」を目標にしたのだ。
ところが、毎年CSで全国1位になるものの、業績は下がっていった。そうして社員が一斉に辞める出来事が起きた。
「96〜97年頃、『この業界にいてもダメだ。頑張っても報われない』と不満を言いだした先輩に影響を受けた新人たちが退職しました。非常にショックでした。採用の際は、人気がない業界なので、学生たちのインターンシップや、手作りでイベントをやったりと工夫をしてきただけに、憤りのようなものを感じたのです」
しかし、大原は思った。「満足感」で職場を選ぶと、転職しても景気が厳しくなれば再び辞めるだろう。満足感は辞める選択肢を増やしているにすぎない、と。
“せっかく縁あって入社してくれた社員を辞めさせてはいけない”と考えたとき、彼は「社員は、会社の空気、風土、つまり人間関係から影響を受けるのであれば、社風を再構築する必要がある」と思った。
「当時、販売方法やCSなど、どれも“やらなきゃいけない”感じで仕事をしている。会社の理念には、『全社員を人生の勝利者にする』と書いてあります。これが最重要であり、実現のためにみんなで整理しなおそうとなったのです」
01年から02年にかけて業績が底を打とうとしていたとき、社内の話し合いで気づいたことがあった。
「どこの販売店も、値引きや店が近いといった利便性で取引を増やしますが、顧客そのものが減っているなかで、“安くて早くて便利”を続けたら、社員は疲弊して破綻します。大事なのは、年に10回以上も繰り返して来てくださるお客様を増やすこと。そうしたお客様はどんな思いや理想を抱いて来てくださるのか。その背景を調べることになったのです」