ヒアリングをすると、「仲良さそうやん、みんな」とか「いつも精一杯にやってくれるやん」といった感想だった。もっと深く聞いていくと、どの感想にも「エピソード」があることに気づいた。
「店に行ったとき、エンジニアの冗談がとても面白くて、みんな和んだ」とか、「雨のなか、車が止まってしまい、ダメもとで電話したら、営業マンが駆けつけてきてくれた」といったものまで、スタッフと客の関係性の深まりを示すものである。
大原たちはX軸を「取引の成熟度」、Y軸を「関係の成熟度」として、関係性の成熟は価格や利便性ではないと確信した。経済合理性とは違う、人間にしかできない「非合理的意思決定(決断)」に意味があると気づいたのだ。
社員たちが顧客とイベントを開催することも。
経済合理性を追い求める「判断」重視の働き方ではなく、「関係性」を深めるにはどうすべきか。大原は「親子関係や恋人関係と同じです」と言う。
「息子が受験に失敗したら、父親としてどう関わるかで信頼関係が変わります。また、恋人がアクシデントに遭ったとき、彼なりにとった最善の行動が、『あなたらしいね』と素敵さを感じてもらえると、関係性が高まります。ちょっとしたひと手間や心遣いこそ、人間同士の関係性を発展させていくのです」
AIにはできない共感や譲り合いといった非合理的意思決定を重視したことで、顧客との関係の質が高まり、取引量(売上げ)に影響が表れた。結果として前述のグラフの数字を導き出したのだ。
非合理的意思決定ができるようになるには、教育にしかない。大原は、「大事なのは、思想や考え方を押しつけるのではなく、考え方を提供すること」と言う。自律主体的に生き、利他の気持ちを育むには、理想を描き、計画を構築し、喜ばれたり、勇気づけられたというフィードバックを得て学習する。
「私は、不満足と不幸は違うと伝えています。貧しさは暮らしにくさであり不満足ですが、それがすべて不幸かというと違います。いま、働き方は境遇だけで善し悪しが語られています。カネのために働くのが仕事と位置づけると、どうしても環境の良さや待遇を追い求める。しかし、それは必ず愚痴や不満のもとになります」
「大事なのは、社員が仕事をしながら成長し、幸福を実現していくこと。働くということは、責任を果たすことであり、こういう家庭を築きたい、世の中をこうしたいという理想を実現させることです。そのためには、仲間と連携したり、ひと手間をかけたり、後輩を励ましたりしながらしかできません」
いま、大原は高知県内の企業や大学と連携して学習会を開き、全国に広めるべく奔走している。
ネッツトヨタ南国の働き方
1. 同僚や顧客との「関係性」を深める判断力を養う
2. 環境に左右されず、自分たちの理想を実現する「再起力型組織」
3. 労働観や人生観について、考え方を社員に提供する