ビジネス

2017.05.17

同僚の給与を「見える化」したら、社内はどうなるか?

ImageFlow /Shutterstock.com

あるフォーラムで小泉進次郎代議士が、「働き方改革」と消費の喚起を兼ねたプレミアムフライデーについて次の話をすると、会場はドッと笑いに包まれた。

「旗振り役の経済産業省が各省に、午後3時以降は帰るよう連絡したら、どんな答えが返ってきたか?『だったら3時以降、何をしたらいいかモデルケースをつくってください』ですよ! 3時以降、何をしたらいいか自分で決められない大人たち!」

小泉がガックリうなだれて、「この国は終わっている……」とぼやくと、会場は再び爆笑となった。働き方やイノベーションを言う前に、自律性がぽっかり欠如した労働観こそ日本の問題というわけだ。

では、労働時間を一律に規制して、過労死をなくし、同時に自律性のある職場にしつつ、収益を上げることはできるのか。そこで、小さな工夫で大きな発見を見出した職場を訪ねてみた。まずはGMOインターネットの取り組みを紹介しよう。


「社内でハレーションが起こる」

GMOインターネットのグループ人事部、山田大作が危惧したのは3年ほど前のことだ。

上場9社を含むグループ107社、スタッフ5156名のGMOインターネットは、昨年、あおぞら銀行と資本業務提携を行い、ネット銀行業にも乗り出そうという成長企業である。人事部の山田が担当することになったのは、「給料の透明化」、正確に言うと「等級ランクの公開」だった。

同社の人事評価は、6段階の等級があり、1つの等級の中にランクがある。等級とランクごとに給与額の枠が定められ、自己目標の達成度に応じて給与が決定する。

この等級ランクを決めるのが、「360度評価」だ。2011年に導入された、他部署を含め、業務に関わる人たちによる匿名評価である。山田は「この制度によって、当社の成長はあると思う」と言う。

「360度、周りから見られることで意識が変わります。また、役職者になる場合、チームの部下の9割以上の支持がないと昇格できません。公平な制度により、みんなが納得感をもって働けるのです」

つまり、「なぜ、あんな人が上司なんだ」という不満や愚痴が消えるのだ。しかし、非公開だった等級ランクの公開が決まったとき、社内から反対意見が寄せられた。山田はハレーションを危惧したが、公開に踏み切ると、予想外の効果が表れたと言う。

「等級に値する仕事をしているかどうか、自分の立場に責任をもちながら仕事に取り組むようになりました。自己目標も保身的な低い目標が減り、次に自分は何をすべきかを考えて目標を立て、それに合わせて行動するようになったのです」

他人より等級が下であることに悩む人もわずかながらいたが、「ハレーションを恐れるよりもメリットの方が大きかった」と、山田は話す。

最近、新たな「見える化」も取り組み始めた。ピンポイントで1〜2週間、毎日15分単位で何の業務をしているかを記録するというものだ。「手間がかかって負担だという不満も寄せられ、改善が必要」と山田は苦笑するが、業務の無駄を見つけ、部署を横断してノウハウ化し、問題解決や効率化につなげていくという。

「見える化」は、自分を客観視できるようになる。個人の可能性を引き出す意外な促進剤といえるのではないだろうか。

GMOインターネットの「見える化」効果

1. 360度評価を導入し、公平な評価によって不満をなくした
2. 給与額がオープンになったことで、仕事に責任を持つようになった
3. 仕事の記録化で無駄を抽出。解決方法のノウハウ化に

従業員を”パートナー”と呼ぶ同社は、グループ企業間でも上下関係をつくらないようにしており、「子会社」や「買収」は禁句である。平等・公平を理念としていることが、「見える化」という施策に発展。平等のための試みが、責任感や自己目標の設定や計画実行につながった。

文=藤吉雅春

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