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2017.05.16 10:05

FBI長官解任で深まるトランプの「ロシアゲート」疑惑


トランプ大統領とコミー長官

トランプ大統領とFBIのジェームズ・コミー長官の関係は政権発足以来蜜月と思われていた。オバマ政権時代の幹部を全て替えると主張し、実際に、世界各国の大使、国家情報局長官、CIA長官など外交、安全保障に直結する幹部を全て交代させたトランプ大統領だが、FBI長官だけは残留させた。当時、トランプ大統領とコミー長官は2人で会うなどしているところが確認されている。

このため、コミー長官の残留はトランプ大統領がFBIの取り込みの1つと懸念するワシントンのジャーナリストも少なくなかった。

その蜜月が一挙に変わったのは3月20日にコミー氏が議会で証言してからだ。コミー氏はこの時、捜査の対象がトランプ大統領の選挙陣営に及んでいることを明らかにした。

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FBIのジェームズ・コミー長官

ワシントンで長く官公庁を主に取材してきた公共放送NPRの記者は、その頃から関係がぎくしゃくし始めたのではないかと推測する。

「トランプ大統領は、『ロシアの問題は選挙に負けたクリントン陣営がリベラルなメディアを使って言い出したフェイクニュースだ』と言ってきた。それを、よりによって自分が信頼してFBIを任せた人物が捜査しているというのだから、怒り心頭だったに違いない。その頃からコミー長官を持ち上げるような発言はなくなっている」

しかし、それが急に解任まで行った理由はNPRの記者もわからないという。

ホワイトハウスでのディナー 

解任の翌日にトランプ大統領はNBCテレビのインタビューに応じている。

この中でトランプ大統領は、コミー氏とホワイトハウスで夕食をともにしていたことを明らかにしている。そして、自分が捜査の対象になっていないと確認したことを明かしている。また、夕食はFBI長官にとどまりたいコミー氏の要請で行われたとした。

その後、この夕食が1月27日に行われたことが明らかになる。実はこの1月27日に意味がある。前述のマイケル・フリン氏がロシア政府と接触していたとの通報が司法省からホワイトハウスにもたらされた直後だからだ。

つまり、トランプ氏は司法省の報告を受けて、自らに危険が迫っていないかコミー氏に確認をしたのではないかとの疑惑が浮上したわけだ。トランプ大統領の説明によれば、少なくとも自分は問題がないとわかり安堵したということになる。つまり保身のためのディナーだったのではないかということにもなる。

ちなみに、この通報をした当時の司法長官代理、サリー・イエーツ氏はトランプ大統領がフリン氏を解任するなどの何かしらの動きを期待するが、その期待は裏切られる。フリン氏はそのままポストに居座ることになり、その後、イエーツ氏自身が解任される。理由は、イスラム教徒の入国を制限した大統領令に従わなかったからだ。フリン氏が解任されるのはさらに後、ワシントンポスト紙でロシア大使とのやり取りがすっぱ抜かれてからだ。

もう1つ、1月27日のディナーはコミー長官の要請によるものだったというトランプ大統領の指摘も問題視されている。これについてコミー氏は一切語っていないが、当時の国家情報局長だったジェームズ・クラッパー氏はメディアの取材に応じて、「コミー氏は明らかに当惑していた。その様なディナーに招待されることで、FBIの独立性が損なわれるのではないかと懸念していた」と答えている。つまり、コミー氏は大統領から誘われて断れなかったということだ。

国家情報局長官はCIA、NSA、FBIといった情報機関の元締めの役割を担っており、FBI長官だったコミー氏が報告をあげる立場にある。クラッパー氏の発言は重い。

前出のジャーナリストが言う。

「クラッパー氏がわざわざ作り話を言っているとは思えない。と、なると、大統領は嘘を言っていることになる。つまり、この大統領は保身のために嘘をつくとなると、これは米国民としては、党派を問わず耐えがたいことだ」
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文=立岩陽一郎

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