米ベストセラー作家が語る「仕事のない未来」への処方箋

作家、エンジニア、起業家のマーティン・フォード(illustration by Masao Yamazaki)


新しい産業は雇用を生まない
 
テクノロジーによって消滅する仕事がある一方、新たに生み出される仕事もある。ナノテクノロジーやVR(仮想現実)、合成生物学など、可能性にあふれた産業が次々に登場している。とはいえ、今までどおりに雇用が確保されると考えるのは間違いだ。

【図3】は、79年のゼネラルモーターズ(GM)と、12年のグーグルを比較したものである。ともにそれぞれの時代のアメリカ社会を代表する大企業だが、収益構造がまったく異なることがわかるだろう。

グーグルは、GMよりもはるかに少ない労働力でより多くの利益を上げていることに注目したい。

新しい産業は既存の産業のような「労働集約型」ではない。多くの労働者を必要としていないのだ。
 
もう一つの重要な違いは、雇用者の教育レベルである。GMが典型的な工場労働者を大量に採用したのに対し、グーグルは高学歴で技術スキルに優れたエリートを少数精鋭で採用している。
 
未来を考えたときに予測できるのは、GMよりもグーグルのような企業が増えていくということ。つまり、問題は2つある。一つは、新しい産業は雇用の絶対数が少ない点。そしてもう一つは、求められる教育レベルが高すぎる点だ。一般の労働者にとって、ソフトウェアをはじめとする新しい産業への「移動」は簡単ではない。
 
従来は仕事がなくなれば、その仕事に就いていた人たちを「再教育」して、もっとやりがいのある、賃金が高くて(工場労働などに比べて)安全な仕事に就けさせればよいと考えられてきた。それがほとんど唯一の解決法であったし、実際そのような方法がとられてきた。
 
だがもはや、その手は通用しない。機械がホワイトカラーの仕事まで奪うようになっているからだ。会計士や弁護士補助員、放射線技師、さらにはジャーナリストの職場にまで、AI(人工知能)が侵食するようになっている。せっかく再教育を受けてこうした専門職に就いたところで、再び失業のリスクにさらされるのだ。
 
以前は成功へのパスポートだった「大卒」という学歴も効力を失いつつある。実際、大卒の若者の平均所得は過去10年ほど、下落傾向をたどっている。大卒者が就職できずに、スターバックスでアルバイトをしているという話を耳にしたことがあるかもしれない。せっかく大学で勉強しても、その知識や経験を活かせる仕事に就けていないのだ。このことからも、「再教育」は根本的な問題解決につながらないことがわかる。
 
では、この危機に対して何をすべきだろうか? 私は、多くの人が最低限の生活保障を受けられるような社会を目指すべきだと考えている。たとえば、「ベーシック・インカム(基礎所得)保障」である。アメリカでは過激な政策ととる向きが多いが、欧州を中心に徐々に関心が高まっている。
 
このまま何もしなければ、変化は起こらない。今起きている社会のトレンドに対応すべく、経済・社会の新しい枠組みをどうするか、考えるべき段階にきている。

マーティン・フォード◎カリフォルニア州サニーベール在住の作家、エンジニア、起業家。代表的な著書に、『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(邦訳:朝日新聞出版)など。近著『ロボットの脅威 ー人の仕事がなくなる日』(邦訳:日本経済新聞出版社)で、フィナンシャルタイムズ/マッキンゼーの「ビジネスブック・オブ・ザ・イヤー」(2015年)を受賞。

マーティン・フォード = 文 フォーブス ジャパン編集部 = 編集

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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