テクノロジー

2017.05.15 08:30

銀行員xウェアラブル端末、「組織活性度」の可視化で何が変わる?

日立製作所が開発した名札型のウェアラブルセンサーは、身体の動きの持続時間分布のパターンから組織の活性度を、赤外線送受信によって人物間の対面コミュニケーションを計測する。

組織の活気なんて、本当に計測できるのだろうか……。

日立製作所が開発提供する「名札型ウエアラブルセンサー」(以下名札型センサー)による組織活性化支援プランを知った三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の野元琢磨は、率直にそう思った。しかも名札型センサーを首にかけて、ふだん通りに働くだけで組織の活気が把握できるというのだ。

「面白いと感じたのは組織の活気を数値化できるだけでなく、その数値と業務の生産性とは相関性があるという話でした」
 
デジタルイノベーション推進部で銀行業務に活かせるテクノロジーのリサーチや導入の検討を担当する野元は続ける。

「多くの人は『あの部署はコミュニケーションがうまくいっていて活気があるから成績がいい』と感覚としてはわかっていたはず。とするなら、組織の活気を数値化し、その数値が上がるような業務改革を行えば、生産性を上げることができるのではないか、と考え導入に踏み切りました」
 
MUFGでは2016年にデジタルイノベーション推進部とコールセンターでの実証実験を終えて、今春からは一部支店へのセンサー導入を試験的に行う予定だ。
 
まず名札型センサーに内蔵された赤外線と加速度のセンサーで、1人1人の身体動作のデータを得る。そこから個々の行動パターンを計測して、いかに活発な組織かを数値化した「組織活性度」を導き出す。
 
こうして得られたデータに従業員の性別、年齢、立場、残業の有無や会議時間などのデータを組み合わせ、それを人工知能によって分析することで、社員のどんな行動が「組織活性度」に影響を与えているのか、明らかにするのだ。
 
たとえば「部長が短い会話を多く行うと組織が活性化する」という知見が得られれば「部長は1日数回は部下と会話する時間をつくる」など具体的な施策に落とし込むわけだ。
 
名札型センサーの開発にたずさわった日立製作所の辻聡美は言う。

「生き生きとした組織の働き方がわかるのはもちろん、モニタリングを続けることで、組織活性度が落ちたら、何か起きたのかもしれないと問題にいち早く気づくこともできる」

実際のネットワークが浮かび上がる
 
名札型センサーからは、誰とどのくらい対面して会話をしているかなどの情報も得られる。それらをマッピングすることで、現場がどのように協力して仕事を進めているのか、対面コミュニケーションによる「実際の組織のネットワーク」を可視化する。
 
ネットワークの形によって、組織の動き方の強み・弱みの傾向もわかってきた。社長を頂点とする上司部下の組織図通りに会話している組織は、決まった目標を効率よく達成できるが、突発的な問題への対応力は弱い。一方、社員同士の横のコミュニケーションが多い組織は柔軟性が高いが無駄もある。

「組織活性度」と組織のコミュニケーションのデータを照らし合わせれば、その組織に適したコミュニケーションの仕方を発見し、根拠として提供できる。

入れ替わりが多く流動性が高い組織で、メンバーの個性や組織の現状把握に苦労するビジネスパーソンは多い。辻は「だからこそ」と言う。

「組織の現状や解決点を認識して、メンバー同士の相乗効果を生んで組織のポテンシャルを引き出すために役立ててもらえれば」

文=山川 徹

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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