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2017.05.12

インフレ目標達成に「財政政策」は必要か?

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財政主導議論の「2つの困難」

日本銀行が量的・質的緩和を導入してから4年が経過した。最初の1年半は、円安・株高によって景気も良くなり、黒田日銀総裁のもと、金融政策の転換は大成功に見えた。14年には、インフレ率は1.5%まで上昇したものの、その後の円高とエネルギー価格の下落によって、また消費者物価インフレ率も0%近くまで落ちてしまった。当初2年で達成するとしたインフレ率目標の2%は、4年たった今も達成されていない。

4年間の国債の大量購入で、日銀が保有する国債は、国債発行残高の40%に達している。金融機関が資本規制や資産負債管理の観点から、必ず保有したい分を差し引くと、日銀が購入できる国債はもうそれほど残っていないという見方もある。また日銀によるETF(上場投資信託)の購入も継続して、浮動株が減少して、株式市場における価格発見機能が失われるという批判もある。

2%のインフレ目標達成のために「財政政策が必要」という意見が昨年来、聞かれるようになった(主に海外の経済学者が主張している)。

第一の考え方は、日銀が保有している国債を「償却」(具体的には、無利子永久国債に置き換え)すれば、将来の返済義務はなくなるので、債務残高を気にすることなく、政府は財政赤字による財政刺激をおこなうことができる、という考え方で、「ヘリコプター・マネー理論」と呼ばれるものである。

第二の考え方は、「物価の財政理論」とよばれているもので、国債の償還の一部をインフレ税によってまかなうと宣言することで、国債を購入する個人が将来の増税不安から解放され、消費を増やす、という考え方である。

「ヘリコプター・マネー」も「物価の財政理論(日本では「シムズ理論」として知られている)」も、一般的なデフレ脱却の理論として考案されたものだが、「将来2%のインフレ目標達成までの政策」として、いまの日本への具体的な提案となっている。

これらの財政主導によるインフレ目標達成の議論には、2つの困難さがともなうことが知られている。第一は、2%を達成するまで、国債償却や増税しないという選択をする、としているが、それは、どの程度の財政刺激になるのか、ということを事前に知ることはできない。償却率や増税率を試行錯誤すれば、コミットメント自体に疑問符がついてしまう。

第二に、効果を持つかどうかは、消費者や企業が将来の増税がない、ということを信じて、いま支出を増やすように行動するか、にかかっている。金融政策のフォワードガイダンス(先行きを示す指針)でもわかったように、将来の政策へのコミットメントの宣言だけでは、なかなか説得力をもたない。

文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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