ゴルフ界の帝王を魅了した「天国に一番近い」リンクス

バリーバニオン・ゴルフ・クラブ

美しいゴルフコースが数多くあるアイルランドのなかでも、際立った存在感を放つバリーバニオン・ゴルフ・クラブ。

かつて“ゴルフ界の帝王”と呼ばれたトム・ワトソンさえ魅了し、秘境の地にありながら圧倒的な知名度を誇るリンクスで、筆者が見たものとは。


「アイルランドで一番美しいゴルフコースはどこか」と聞かれたら、バリーバニオン・ゴルフ・クラブを思い浮かべる方も多かろう。

日本語表記では「バリーバニオン」とされることが多いが、現地では「ブリーブニオン」と発音したほうが伝わった。我々がこの難解な英語をしっかり発音できていないからだろう。地名の由来は判然としない。ballyは街、bunionは腱膜瘤(足の親指の内側の腫れ)という意味の英単語らしい。

英国で購入したガイドブックによると、まだほんの田舎町にすぎなかった15世紀ごろ、この地域の城を所有していたBunion一族にちなんで名づけられたという説もあるそうだ。本当のところは、次に行ったとき、現地の有識者に確認しないといけない。

オールド・コースと、1984年にロバート・トレント・ジョーンズが設計したカシェン・コースがあり、合計は36ホール。リンクス自体は1893年に開設されているが、97年、ジェームズ・マッケナによってオールド・コースの基となるコースがデザインされた。その後、財政難に陥るも、1906年に元インド軍将校のバーソロミュー大佐が投資をして、9ホールを新設。さらに23年、18ホールに延伸されて現在の形になった。

ちなみに、2008年までクラブの幹事を務めていたジム・マッケナ氏の祖父の名はジェームズ・マッケナだそうだ。これまたアイルランドの伝統というものであろう。

位置的にはアイルランドの南西端に位置している。シャノン空港からフェリーなどを駆使して行くと比較的近いように感じるものの、やはり全英オープンなどを定期的に開催している他のコースに比べると、不便さは飛びぬけている。この立地のためか、メジャーなトーナメントは00年にアイリッシュ・オープンとヨーロピアン・オープンが開催されたくらいである。

「Hidden gem(隠れた宝石)」系でファンにはたまらないが、その有名ぶりはすでに「隠れている」とは言えない。バリーバニオンをHidden Gemと呼ぶと、盟友の加茂太郎先輩に怒られるのであえて書いておく。

バリーバニオンが有名になった原因は、かつて圧倒的な人気を博した帝王のトム・ワトソンが81年に初めてバリーバニオンを訪れた際、「世界で最も美しいコース」と絶賛して、その後も全英オープンへ出場するたびに訪れていたことだといわれている。

彼の影響で、ゴルフ好きのアメリカ人が殺到した。ビル・クリントン元大統領でさえ、在任中の98年に加え、引退した後の01年にも再訪するほどの熱の入れようであった。日本の安倍晋三首相がトランプ大統領の別荘でゴルフするくらいでいちいち目を釣り上げていては、大人げないというものであろう。
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小泉泰郎 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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