放送作家、脚本家、ラジオパーソナリティ、大学教授とマルチに活躍されている小山薫堂さん。実は、スイスのジュネーブやバーゼルで開催されている時計の国際見本市へも、何度か足を運び、取材をしている時計通でもある。
その小山さんが一目惚れして購入したのが、リシャール・ミルの「RM 035」である。でも、リシャール・ミルのファーストインプレッションは、それほどいいものではなかったという。
「10数年前、ジュネーブサロンの取材時にホテルの一室でリシャール・ミルさんを紹介されたんですよ。そのとき、時計の説明を受けて、見せてもらったんですが、まったく心が動かなかったんです」
時計の世界は、100年以上続く老舗が多いこともあってか、餅は餅屋的なところがある。いくらファッションの世界で名声を得ているブランドが参入してきても、それと同じくらいのポジションにつくのは、なかなか難しいのだ。
「時計界のことも見てきたので、当初は新規参入してラグジュアリーな時計を売っても絶対失敗すると思ったんですよ」
ところが、3年前、2014年のジュネーブサロンで衝撃的な出会いが待っていた。
「まず、その軽さに驚いたんです。いまや、正確な時計って要らないですよね。時計の美しさはどこに向かっていくのか?と考えていたときに、この軽さに出会うんです。見た目は重そうなのに軽いという、ギャップの生み出し方がすごく面白い。しかもモデル名がうちの社名“N35”と同じ数字“35”。恋に落ちるかのごとく、たちまち好きになりました」
小山さんは、この1000万円を超える「RM 035」をその場で予約。シリアルナンバー「35」にもこだわった。
「シリアルナンバーは35にしてもらえたんです。なので、すごく愛着があります。でも普段使いにしています。ジーンズなどカジュアルな服装のときによく着けますね。時計は、着けていて精神的に振り回されないのが基準です。これは、僕の中では気を使わない時計なんです」
当初、それほどいい出会いではなかったリシャール・ミルだが、ここ数年、小山さんの評価は急上昇している。
「いま欲しいと思ってるのがRM 67-01なんですよ。薄いモデルで、デザインも僕好み。でも、安土桃山時代の武将の旗というのがあって、それも同じくらいの価格なので、迷っているんです」
古美術品と天秤に掛けられているリシャール・ミルもすごいが、それで迷う小山さんにも驚かされた。
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。放送作家・脚本家。本誌連載企画「妄想浪費」でもおなじみ、地方創生にも携わる。所有しているRM 035はポリウレタンベルトで「気を使わずに」使用ところが気に入っている。リシャール・ミルさん直伝のカスタムだそう。