吉田教授が受け持つ講座は、ロボコンなどのモノづくりが中心だが、学生たちからの人気はかなり高いそうだ。
宇宙をめざす海外の学生たちは数式や計算などを使ったシミュレーションには強い反面、実際にモノに触れるhands-onの機会は少ない。そのため好奇心を満足させられず、フラストレーションを抱えているケースも多いそうだ。ということもあり吉田教授のモノづくりを中心とした講座には、多くの学生たちが集まるのだそうだ。また国際宇宙大学で吉田教授の教えを受けた学生たちが、その後、東北大学に留学を決めるケースも多いという。
「海外からわたしの教室に入ってきた学生には、まずはフィールドに出て砂にまみれろと言っています(笑)。自然現象をよく観察し、自然の摂理に適うモノづくりの大切さを肌で感じながら研究を進めるよう指導しています。『下町ロケット』に代表されるように、宇宙開発の現場では、日本のモノづくりがあらためて注目を集めています。宇宙産業を支えているのは、町工場の職人さん。部品単体の精度や完成度を高めるという点では、日本が築き上げてきた財産は大きいと思います。宇宙という特殊環境を理解した上で、自然の理に従うという考え方が原点だとわたしは考えています」
長期的にはランダー(着陸機)の開発も
一方、システムを組み上げるという点では、日本はまだまだ海外に劣っていると吉田教授は指摘する。ロボットや宇宙船の開発には、全体を構築するインテグレーターとしての能力が必要とされるが、日本の技術者がいまだに「部品供給者」に甘んじている現状に対しては、吉田教授も強く思うところがあるそうだ。
「研究室に集まる日本の学生と海外からの学生を見ていると、発想に差があるのに気づきます。日本の学生の考え方は、枠にはまろうとする。対して海外からの学生の考え方は、枠があろうがなかろうが、自由奔放にやるというスタンスです。たしかに日本人は枠にはまるのが上手いから、部品産業が発達してきたとも言えるのですが……。
枠にはまることに長けているのは、周囲と協調して労働することが重要だった農耕民族としての文化が影響しているのかもしれません。一方、イノベーションを起こすためには枠を突き破る必要があります。
いずれにせよ、大学で日本の学生と海外からの学生が交流して、互いに刺激を受けるというのは非常に良いことだと思っています」
現在、吉田教授から学んだ海外からの学生たちのなかには、HAKUTOやispace社でコアメンバーとして活動している人間もいる。国際宇宙大学や東北大学での人的交流が、HAKUTOなどの明日の宇宙ビジネスを担うプロジェクトにも繋がっている。「その光景を見ると、教育者としての喜びもひとしお」と吉田教授は微笑む。
それまで研究者としてサイエンスという視点から宇宙を眺めてきた吉田教授にとって、今回HAKUTOのプロジェクトに参加して、ビジネスという新しい視点を得たという。Google Lunar XPRIZE以後の宇宙ビジネスに対する新たなイメージも思い描きはじめているという。
「地球のまわりに国際宇宙ステーションがあるように、月に国際基地ができるのはそれほど遠い未来の話ではないと考えています。科学者が月面に常駐したとき、水や酸素をどう供給すればよいか。宇宙から資源を採取して地球に持ち帰ってもおそらくコスト的には見合わないが、宇宙空間でそれらを使用するのであればビジネスとして成立するかもしれない。このように、Google Lunar XPRIZEに参加していなければ、考えなかったようなことがたくさんあります。
サイエンスはこれからも重要。一方で、ビジネスとしても宇宙は射程に入ってきている。HAKUTOやispaceでの活動を通じて、日々そういう思いを強くしています」
2017年12月28日、自信を持って宇宙に送り出そうとしている月面探査ローバーSORATOはもちろんのこと、「長期的にはランダー(着陸機)の開発も視野に入れたい」と語る吉田教授。新たな目標を形にするため、日本が誇る宇宙のトップランナーの挑戦は続く。
*Forbes JAPANは、月面探査用ロボットの打ち上げまで、HAKUTOプロジェクトの動きを追いかけていく。
au HAKUTO MOON CHALLENGE 公式サイト>>