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2017.05.10

NASAの失敗を活かす!「メイド・イン・ジャパン」が月面で光る日

東北大学 吉田和哉教授

人類初の月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に挑戦するHAKUTOのローバー「SORATO(ソラト)」。

もっとも初期からこの月面探査車の開発に携わってきた東北大学の吉田和哉教授は、レースの勝算について「優勝できる可能性は非常に高い」と断言する。怜悧な技術者の目で見た「SORATO」の実力について、ひき続き吉田教授に訊く



HAKUTOの相乗りパートナーでもあるインドのTeamIndusが4月に来日し、彼らの開発したローバーも公開された。現段階でGoogle Lunar XPRIZEに参戦しているのは、このTeamIndusやHAKUTOを含め全世界で5チーム。各チームの移動方式については、詳細な情報が明らかにされているわけではないのだが、にもかかわらず吉田教授のSORATOに対する自信は揺らぎない。

「ローバーで注目すべき点はホイール(車輪)のデザインです。詳しく言うなら、ホイールの直径とグラウザー(ホイールについた羽根)の高さ。公表されている写真などを見る限り、他チームのローバーデザインは、わたしたちのSORATOのように月面の特殊性や移動する際の状況をシュミレーションしきれているとはいえません」

月の表面は「レゴリス」と呼ばれる堆積物で覆われている。レゴリスは砂粒というよりも火山灰のように見える物質だ。

月には大気がなく、風も吹かなければ、雨も降らない。そのため、隕石が衝突するとレゴリスとなって堆積する。月面はかなりフカフカな状態にある。加えてレゴリスにはもうひとつの特徴がある。踏むとグッとしまる、言い換えれば荷重が加わった途端に固くなるという性質だ。

吉田教授の研究室には月面のレゴリスを再現した希少な模擬砂がある。実際にさわると、触感はメリケン粉や小麦粉に近いが、力を加えると固くなる。月面攻略はこのレゴリスの特徴を理解することからはじまる。

「月面をうまく走るためには、まずレゴリスをグラウザーでしっかりとグリップする必要があります。その際、ホイールの直径は小さくすべきではない。ホイールが小さいと柔らかい地表に潜りこんでしまい、立ち往生することになります。SORATOが優位にあるとわたしが自信を持っているのは、他チームのローバーのデザインではそれらの点が重視されていないからです」



吉田教授によれば、NASAが2003年に火星探査のために打ち上げた2機の探査ローバー「スピリット」と「オポチュニティ」も、このレゴリスの性質を軽視して、危うくミッション失敗の憂き目に見舞われそうになったという。

「NASAのローバーは6輪で、ゴツゴツした岩場の移動を想定して設計されていました。そして、ホイールの直径は機体サイズに比べて小さかった。結果、火星のレゴリスにはまって立ち往生してしまった。もがけばもがくほど、車輪が埋まるのです。わたし自身はいつか月探査のローバーを開発したいという思いを持っていたので、NASAの火星探査も注意深く見守ってきました。そして10年以上ずっと研究を続け、ホイールのデザインが月面を走るためにはカギになるという結論に達したのです」

まずはフィールドに出て砂にまみれろ

いつか月面探査のローバー開発をという自らの夢を実現するため、研究を続けてきた吉田教授だが、そのバックボーンには、Google Lunar XPRIZE参戦へのきっかけともなった国際宇宙大学での豊富なキャリアもある。

その国際宇宙大学と吉田教授の繋がりはいまだ健在だ。吉田教授は年に2回、講師として国際宇宙大学のカリキュラムに参加している。今年はアイルランドで開催されるサマースクールにも登壇する予定だ。なお、現在この国際宇宙大学で定期的に教鞭をとる日本人は吉田教授ただひとりだ。

「国際宇宙大学のメインキャンパスはフランスのストラスブールにありマスター(大学院修士課程)の教育がおこなわれているのですが、これに加えて毎年6月~8月に、場所を変えて10週間に及ぶサマースクールが実施されます。参加者は100名超、国籍は30ヵ国にも達する多様な学生が集まります」

「わたしが所属している東北大学からも毎年必ず1名、学生を送っています。サマースクールの講座でわたしが担当するのは、月惑星探査を模擬したロボットコンテストのオーガナイズ。わたしが教えに行くのは全期間中の1週間だけですが、1998年以来ほぼ毎年参加しています」
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文=河鐘基、編集=稲垣伸寿

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