「見える化」以外のメリットとして、ルーティン的な仕事の自動化がある。例えば、部屋の大きさや利用する人数・温湿度条件などが決まれば、最低限必要な空調設備はどのようなスペックが決まる。「BIMの導入前は毎回担当者が多くの時間をかけて計算していましたが、現在は作業を自動化できるようになりました」(日本設計・近藤美登里3Dデジタルソリューション室主管)。
新しいことに挑戦する可能性が開ける
ここまで紹介した例のように、BIMによって作業効率が高まれば、拘束時間を短縮できる可能性は高い。それは日本設計がBIM導入を決める際に狙った効果でもあるのだが、現場の設計者はそれとは違うメリットも感じている。
「ルーティン的な仕事から開放され、場所・時間の自由度が増すことによって“優れたデザインを作る”ことや“こだわりを実現する”といった、よりクリエイティブな仕事に集中できることは、設計者にとって魅力的なことです」(同社・塩見理絵3Dデジタルソリューション室主管)
「見える化」と「自動化」により、仕事時間と場所の自由度が増せば、定量的なシミュレーションを繰り返しながら多くのケースの検討が可能になる。従来であれば、時間の制約から、経験に頼った設計をせざるを得なかったようなケースでも、新しいことに積極的に挑戦する可能性が開ける、というのだ。
BIMは「日本では本格的な取り組みが始まったという段階」とオートデスク・濱地はいうが、欧米では10〜15ほど前に導入が始まっている。近年はアジアでも利用が広がっており、シンガポールでは国家として数年前から大型物件を対象に導入を義務付けている。
BIMのさらなるメリットは業界全体に広がることによる効率化だ。日本の場合は、現場の職人が優れており、経験値も高いため、2Dで慣れてきた者にとってはデータ化への抵抗もないとは言い切れない。しかし、特に現場では労働人口の減少は深刻だ。“暗黙知”や“経験値”の継承はいっそう難しくなる。
日本設計の岩村は「BIMにはまだまだいろいろな可能性が眠っているはずです。ユーザー自らが新たな使い方を見つけ、可能性を広げていくべきだと考えています」と語る。
人がテクノロジーを使って、人にしかできない”創造的”な仕事に時間を費やすことができる。日本の矜持である「ものづくり」の現場を革新する、理想的なモデルケースとなることを期待したい。
─BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)とは?
コンピュータ上に作成した3Dの建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加。建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューションであり、またそれにより変化する建築の新しいワークフロー。北欧、アメリカ、シンガポール、韓国で特に導入が進んでいる。