マスターカードも、クレジットカードなど関連サービスの承認作業に「ディシジョン・インテリジェンス(Decision Intelligence)」と呼ばれるAIを導入していく計画だとしている。ただし、こちらの用途は詐欺の検出ではない。反対に“正常な使用”を判断・承認するのが目的となる。
なぜ正常な使用をわざわざ判断する必要があるのか。実はカードが正常に決済されなかったがために企業が被る損失は、詐欺よりさらに大きいのだそうだ。
ジャベリン・ストラテジー&リサーチ(Javelin Strategy&Research)社のアル・パスクアル(Al Pascual)上級副社長は「米国の場合、間違って拒否されるカード取引きの規模が、クレジットカード不正使用に起因する損失よりも13倍以上大きい」とメディアに話したことがある。その統計に間違いなく、また正常な商取引を判断できるAIが実現したとすれば、今後もたらされる経済的利益は非常に莫大なものになるはずだ。
それらAIを使った犯罪抑止が進む一方で、将来的には声紋を模倣ための詐欺AIが登場するのではないかという懸念も一部で浮上してきている。
昨年、アルファ碁を開発したグーグルの子会社ディープマインドが「どのような人間の声も真似することができ、(また)既存のどのシステムよりもはるかに自然な音声を提供することができる音声合成システムの開発に成功した」と公表した。それに対し、ニューヨークタイムズなど海外メディアは、高度なAIシステムが犯罪に悪用されれば、ボイスフィッシング詐欺にも“イノベーション”が起こるかもしれないと真剣に危惧したことがある。
人工知能が犯罪抑止に威力を発揮するか、もしくは犯罪を助長するかについては、もうしばらく社会の動向を見守る必要がありそうだ。