ブルームバーグの報道によるとクアルコムは、アメリカ国際貿易委員会(USITC)に対し、アジアで製造されたiPhoneの米国への持ち込みの差止請求準備を進めているという。クアルコム、アップルの両社はこの件にコメントを控えている。
クアルコムのこの動きは、アップルがクアルコムへのロイヤリティ支払いを停止した事への対抗措置と見られている。クアルコムは先日、アップル側の決定を同社の投資家らに伝え、今後の決算に5億ドルにのぼる影響が出ると伝えていた。
クアルコムが実際にこの動きに出れば、同社は今後のアップルとの取引を失うことになる。クアルコムは昨年のiPhone 7へのチップ供給にインテルが参入するまでの数年間に渡り、iPhoneへのモデムチップの供給を独占してきた。アナリストらは今後、インテルがiPhone向けモデムの納入量を増加させると見ている。モデムチップはiPhoneのコンポーネントの中では高額な部品として知られている。
モデムチップ分野で主要サプライヤーであるクアルコムは、同社の製品を通じ端末と通信ネットワークをつなぐだけでなく、この分野で莫大なライセンス料を得てきた。クアルコムの収益の実に3分の2近くがライセンシング事業からのものなのだ。
クアルコムが今回の差止請求を実現させ、禁輸を実行に移したなら、アップルへのダメージは壊滅的なものになる。アップルにとって米国市場での売上は40%にものぼる。
しかし、テック業界のアナリストのPatrick Moorheadは、クアルコム側のITCへの申し立ては実現に至らないと予測する。なぜなら、クアルコムは米国をはじめEUや韓国政府からも独占禁止法に抵触する可能性を指摘されているからだ。「当局のクアルコムに対する心証は非常に悪い」とMoorheadは述べた。
今回の法廷闘争は今年1月、アップルがクアルコムを提訴したことを契機に始まった。「クアルコムは彼らが無関係なテクノロジーからもロイヤリティ収入を得ようとしている」というのがアップル側の言い分だ。アップルによると、クアルコムはアップルが韓国の規制当局の捜査に協力した事への報復措置として10億ドルをアップルに請求しようとしたという。
これに対しクアルコム側は今年3月にアップル側を逆提訴し「アップルはサムスンらの力を借りて、クアルコム側を攻撃しようとしている」と述べた。「アップルはクアルコムを窮地に追いやるために、当局側に誤った情報を提供している」というのがクアルコム側の反論だ。
関係者の中からは、今後アップルが自社でモデムチップを製造する動きに出るのではないかとの見方も浮上している。しかし、モデムチップの製造は各国の様々な基準に適合する必要があり、非常に参入が難しい分野だ。
「今回の紛争はアップルの製品開発の全てに影響を及ぼす事態と言える」とMoorheadは言う。「顧客に対し最高のユーザー体験をもたらしたいのなら、チップに対しても完全な支配権を握らねばならないというのがアップルの考えだ。しかし、アップルが仮に自社製チップの製造に成功したとしても、アップルはクアルコムだけでなくノキアやエリクソンに対してもライセンス料を支払う義務が生じる」とMoorheadは述べた。