そうしたマスクの厳しい要求に応えることができない、あるいは応えようとしなかったことが原因で、テスラとの関係を断ち切ることになったのはグローマン前CEOだけではない。
モデルXのシートを生産していたオーストラリアのサプライヤーに問題があると判断した後、マスクはシートを自社生産に切り替えた。また、ファルコンウィングと呼ばれるドアを手掛けていたドイツ企業は、設計に関連する対応に問題があったとして、テスラから訴訟を起こされている。さらにテスラは今年1月、モデル3の発売に向けた準備の遅れを理由に、ドイツの部品メーカーとの契約を打ち切った。
グローマンはストを計画
これら各社とグローマン・エンジニアリングの違いは、テスラの下で働くことになった同社の従業員ら700人が、将来を案じてストライキの実施を計画したことだ。オートメーションとエンジニアリングに関するグローマンの専門知識を必要とするテスラにとって、これは破滅的な結果をもたらし得る大問題だった。テスラは来年には全車種を合わせ、年間50万台の生産を目指しているが、業界関係者でこの目標の実現を確信している人はごくわずかだ。
ストを回避するため、テスラはグローマンの従業員たちに雇用の保証と賃上げ、ストックオプションの付与を約束した。さらに、グローマンの労働組合関係者によれば、1000ユーロ(約12万円)のボーナスも支給したという。
テスラ側のこうした対応は功を奏しているようだ。この関係者によれば、ストの実施は見送られる方向にあるという。ただ、それでもドイツの有力労働組合、金属産業労組(IGメタル)はテスラに対し、グローマン従業員との正式な労働契約の締結と、仕事の保証に関するさらなる対応を求めている。
テスラとグローマンとの間で生じた問題は単に、マスクの性急な“破壊者”精神がドイツの秩序とプロセスを重視するエンジニアリング企業との間にもたらした文化的な衝突が原因なのかもしれない。いずれにしても、グローマンの経営権は完全にマスクが掌握した。今後、誰にもそれを譲ることはないだろう。