ビジネス

2017.05.04

兼業も許可、ラクスルが「多様な働き方」を推める理由

ラクスル、永見世央取締役CFO(写真=ヤン・ブース)

なぜトップスタートアップは、優秀な人材を惹きつけるのか。秘訣は「働き方の工夫」にあった。シーンを牽引するメルカリ、ラクスル、ソラコムの3社が実践する「イノベーティブなワークスタイル」とは? ラクスルの永見世央CFOに話を聞いた


「活躍できるのは男性や20代だけ。そのような力を発揮できる人材の幅が狭い企業は、これから組織力でビジネスに勝つことはできません」

そう断言するのは、ラクスルCFOの永見世央だ。「ダイバーシティを内包できること自体が、組織の強み」と話す通り、ラクスルは全社員のうち、半分が女性。平均年齢は32歳。4割の社員が子供を持つ。

「年齢や性別、国籍等にかかわらず優秀な人が入社し、活躍している状態こそが、組織としての競争優位だ」

ラクスルは多様な人材を惹きつけ、働き続けてもらう源泉の一つとして、どういう働き方を社員に提供できるかを重要視。経営側が「ダイバーシティ」を前提に組織を運営するからこそ、フレックス制など、個別の事情で、働き方を選べるように整備された制度を、社員が気兼ねなく利用できる社風が生まれた。保育園への送り迎えや、子供の急な病気への対応のために、働く時間や場所を調整することは当たり前。そんな共通理解が社内にはある。

また、エンジニアの働き方をより生産的にすることにも余念がない。2人のエンジニアが横並びになり、同じコードを見ながら、共同でプログラミングを行う「ペアプログラミング」やアジャイル型開発手法を新たに導入した。午前9時から午後6時という決められた時間内で、互いに議論をしながら、集中的に作業を進めるこの開発手法。エンジニアの育成と生産性の向上に大いに貢献している。

2016年12月からは、社員からの申請を元に、会社が許可した場合は兼業を認める「兼業許可制」も開始。以前プライベートエクイティで複数の投資先を同時に担当し、クロスラーニングの重要性を理解する永見は、「どうしてもやりたいという兼業は、良きクロスラーニングの機会になり、ビジネスパーソンとしての成熟度も高まるはず」と考える。

許可制の導入後に申請された業種は、受託開発からコンサルタント業まで様々だが、中には事業を立ち上げた社員もいる。広報・人事を担当する忽那幸希は、「海外のカップルに向けて、日本の美しい景観や文化財を舞台にしたフォトウェディング(前撮り)を提供したい」というビジョンを持っていた。入社前から関連する一般社団法人を設立していたが、許可制の導入以前は非営利活動として、ラクスルの業務と両立。許可制導入をきっかけに、株式会社を設立した忽那は、同制度の魅力をこう語る。

「自分のやりたいことを、会社側からオープンに認めてもらえると、兼業にも堂々と誇りを持って取り組める。同時に、やりたいことを応援してくれる会社には恩返しをしたいという気持ちが湧き、本業にもより力が入る」

採用活動で出会う優秀な人材から、「兼業は認められているか」との問い合わせが相次いだことも、制度導入の理由の一つ。個人の持つビジョンが会社の中で、完全に実現できるとは限らない。情熱とスキルのある優秀な人材には、会社に所属しながら、個人のビジョンの追求を認める「多様な働き方」を提供するのが、ラクスルの狙いだ。

「経営をする上で常に意識しているのは、ビジョンの求心力と遠心力のバランス。『仕組みを変えれば、世界はもっとよくなる』というビジョンの下で社員が一致団結することを大前提とする一方で、ビジョンを核として外に向かう力も必要だ。組織のダイバーシティや兼業許可制が、組織をドライブさせる動力源となることに、私は期待する」


ラクスル◎印刷費のコスト削減率の高さに注目し、印刷会社の非正規稼働時間を活用した印刷のeコマース事業を展開。ネット印刷サービス「ラクスル」、中小企業のチラシを使ったオフラインで集客活動を支援する集客プラットフォーム事業を運営する。2015年12月には、運送会社の非稼働時間を活用した物流シェアサービス「ハコベル」を開始した。

永見世央◎ラクスル取締役CFO。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ペンシルべニア大学ウォートンスクールMBA修了。みずほ証券を経て、2006年から2013年まで米カーライル・グループに所属し、バイアウト投資と投資先の経営及び事業運営に関与。その後、DeNAを経て、14年4月にラクスルにCFOとして参画。同年10月に、取締役就任。

文=山本隆太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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