ビジネス

2017.05.05

シェイク シャック創業者が語る「サービスとホスピタリティの違い」

Photo by Han Myung-Gu/gettyimages


1通目は、バケーションでNYに訪れたカップルからの感激の手紙。彼らは「Danny Dine Around(マイヤー経営の全レストランを制覇すること)」を実行、シェイク シャックは最終日のJFK空港で行く予定だった。しかし、フライトの変更によりターミナルが変わり、「シェイク シャックが食べられない! 無念だ」というツイートをしたところ、なんと空港のシェイクシャックのスタッフが彼らのターミナルまでハンバーガーを届けたのだという。

2通目は、ボストンのシェイク シャックを6歳の孫と訪れた男性からの叱咤の手紙。孫が欲しがったホットドッグが売り切れで、「なんとかならないか」とマネジャーに掛け合うと、1本だけ残っていたソーセージを在庫の切れたバンズの代わりにレタスでくるんで提供されたとのこと。「他の店なら、近くのスーパーでバンズを買ってくるだろうね」と辛辣だった。

マイヤーはその件をチームと共有し、対応策は店舗スタッフに任せた。彼らは男性に電話で謝罪し、孫の通う学校を尋ね、後日クラス全員と親の分までホットドッグを持参した(孫は一躍クラスのヒーローとなった)。話はこれで終わらない。数カ月後、男性はマイヤーのザ・モダンという高級レストランを貸し切り、約5,000ドルを使った。一方、ザ・モダンはホットドッグの形をした焼き菓子をつくり、ウェイターはシェイク シャックのTシャツを着てもてなした。

もはやユーモア対決のような様相だが、男性はマイヤーに電話して、「You win!」といったという。「まさに、成功への道は失敗への対応から。失敗しないことよりも、失敗したときにどう対応するかが、のちの事業に大きな貢献をするのです」。

マイヤーの提唱するホスピタリティが世界約2,000人の従業員に浸透しているのには驚かずにいられないが、その秘密はホスピタリティを提供する優先順位にある。まず従業員、次にお客様、そしてコミュニティ、仕入れ先、投資家が続く。お客様第一の視点から見ると違和感があるかもしれないが、実際2番目である客の満足度は高まり、5番目の投資家の数も増えた。

2015年11月からは段階的に傘下レストランのチップを廃止。これも有能なシェフを確保するとともに、従業員の給与を安定させる狙いだ。「長年続いたレストラン文化に反しているので正直難しいですが、このやり方が正しいと思うし、いずれ根付いていくと信じています」。
 
またトランプ大統領の就任後は、従業員に「健康保険、産休・育休、移住問題など、これからも必ずサポートする」という内容の長いメールを送っている。「シェイク シャックがスタートしてからブッシュ政権、オバマ政権、あの人(That guy)の政権と3つ経験しているけれど、リーダーが誰であろうと私たちの信念は変わりません。それを貫いていくのみです」。
 
マイヤーの著書『Setting the Table』は日本で『おもてなしの天才』というタイトルに変更されたが、まさにその通りの人だった。


ダニー・マイヤー◎1958年、アメリカ・ミズーリ州生まれ。レストランのアシスタント・マネジャーを経て、85年にユニオン・スクエア・カフェを創業。2015年にはタイム誌が選ぶ「世界で最も影響力がある100人」のタイタンカテゴリーに選出された。

堀 香織 = 文 山本マオ=プロフィール写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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