─その後も進化したのでしょうか。
今では、よりフラットな構造の「エコシステム」を志向しています。三角形ではなく、ネットワークのような組織を目指し、社員やユニットが社内外で顧客のために価値を生み出そうとしているのです。社内起業家の育成を進め、「ミクロ企業」という社内企業を立ち上げることを奨励しています。
─社員間の競争意識の面ではいかがでしょうか?
ハイアールは厳しく結果を求めることで知られています。特に、ユニットを率いるリーダーに対して厳しいです。リーダーはメンバーによる投票で選ばれますが、仮に不適格と判断された場合、交代させられる制度があります。
─そうした投票制度は、社内政治につながりそうですが。
多少はあるでしょう。しかし、先ほど述べたように、ハイアールには協調性を評価する組織構造と企業文化があります。それに、社内政治で個人の利益を追求するよりも、適切なリーダーを選び、支える方が長期的にはメリットがあるのです。
また、この投票制度には、1人の社員に権力を集中させない機能があります。加えて、多くの社員で責任を共有し、リーダーを育成するという点でも効果的です。
─12年には三洋電機の白物家電部門がハイアールに買収されています。
私が見た限り、買収当時はまだ多くの社員がハイアールの文化に対して懐疑的であるように思えました。ところが昨年に行った調査では、社員たちがシステムを理解し、それをよりよく活かす方法を考えていました。
例えば、研究開発部門の社員からは「本社からリソースや支援を得られる」というコメントが出るなど、12年当時と比べて前向きです。
─今後、ハイアールはどのように進化するのでしょうか。
企業文化について尋ねたところ、ある社員から「どんなときも挑戦せよ」という答えが返ってきました。ハイアールはいつの時代もテクノロジーの進歩を追いつつ、市場のニーズに応えてきました。彼らの戦略は常に進化しています。マネジメント手法もそれに合わせて進化させてきたのです。だから、数年後にはまた構造を変えて前に進むのではないでしょうか。
李 逸庭◎IESEビジネススクール准教授。専門は組織論。ローザンヌ大学、サンダーバード国際経営大学院ヨーロッパ、龍華科技大などを経て現職。2011年のハイアールによる三洋電機の白物家電部門買収と統合に関するケーススタディを執筆。