WeWorkのCEOアダム・ニューマンは、創業時から「グローバルブランドを確立すること」にこだわっていた。地域に根ざした空間づくりを意識する一方で、根底にあるポリシーは一貫している。それは、世界中のクリエイターの働き方を変え、彼らのコミュニティの活性化を図る、ということだ。
「会員のモチベーションを高め、インスピレーションを得られるようにするためには、どうすれば良いのかを考えてきた」と、共同創業者でありチーフ・クリエイティブ・オフィサーのミゲル・マケルビーは言う。
WeWorkのコワーキング・スペースは、自然光が入る空間や、木材、石などの温かみのある素材に鮮やかな色のインテリアなど、おしゃれで遊び心を感じさせる内装が特徴だ。しかしこれらのインテリアの意図は、単に空間をスタイリッシュにすることではない。ユーザーのストレスを軽減し、クリエティビティを増すことにある。
「気分が良いと、コーヒーを飲みながらほかの人と自然に会話が生まれる。視野が広がって、コネクションもできます」
個室オフィスや会議室などを区切るパーテーションには、透明のガラスが使われている。これは、入居者に互いの熱意を共有させるのが狙いだ。
「小さなオフィスでは全員が友達のようなもの」とミゲルは言う。誰かが成果を上げれば、所属に関係なく祝福しあう。空間の随所に会員のモチベーションを上げるための工夫がなされているのだ。
データサイエンティストが空間を分析
彼らは決して、最適な空間設計への確固とした「解」を手にしているわけではない。オフィスを最適化するには、入居者の属性と空間の活用度合いの複雑な因果関係を理解する必要がある。
ある地域で満足度が高いレイアウトが、ほかの地域でも成功するとは限らないからだ。そこでWeWorkが活用するのが機械学習である。
「私たちはソフトウェア会社のように業務を行っています」とミゲルは言う。
WeWorkにはデータサイエンティストがおり、会員からのフィードバックや稼働状況などのビッグデータを分析し、空間やオペレーションシステムに反映させながら、会員のユーザー・エクスペリエンスを上げるための「更新」を常に行っている。
例えば会議室。ユーザーの属性情報と会議室の稼働率を反復学習させることで、レイアウトごとに最も適した会議室の数やサイズのパターンを導きだしている。
こうして得られたデータは、デザイナーにフィードバックされる。特定のタイプの空間がうまく機能していることがわかれば、その要素をスタンダードな空間に取り入れる。空間のオーナーでありながら、設計、デザインまでを一手に行うWeWorkのビジネスモデルだからこそ、このように学びを次の設計に生かすことができる。
「10万人」と繋がるグローバルなネットワーク
会員同士の交流イベントも頻繁に開かれる。WeWork側が企画するものもあれば、会員が自主的に開催するものもあり、目的も、カジュアルな交流からビジネスアイデアの交換までさまざまだ。そこでは、給与相場などの生の情報や、専門的なアドバイスまでさまざまなやりとりが飛び交う。開発中の自社製品を試してもらうなどして、マーケティングに活用することも可能だ。
このような交流はオフィス内にとどまらない。会員は専用のSNSで繋がっており、知りたい情報をポスティングすれば、世界中のさまざまな地域からレスポンス受けることができる。世界125カ所以上の拠点を繋ぐグローバルなネットワークも、彼らの強みである。
WeWorkが提供するのは、単に作業をこなすための「仕事場」ではない。オフィス空間は彼らを繋ぐ「触媒」に過ぎず、真の価値は、情熱や志を持った人々のハブとなるコミュニティ形成にある。
ミゲル・マケルビー◎WeWork共同創業者、チーフ・クリエイティブ・オフィサー。オレゴン大にて建築を専攻。卒業後は日本に渡り、英会話のスタートアップを立ち上げ、のちに売却。2008年にアダム・ニューマンからシェアオフィスの構想を聞き、建築会社の仕事を辞して「グリーンデスク」の創業に携わる。10年にWeWorkを共同創業した後はチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして建築、建設及びデザインを取り仕切る。
アダム・ニューマン◎WeWorkCEO。イスラエル出身。2001にニューヨークに移り、08年に地域情報サイト「クレイグリスト」を使って自身のオフィスの又貸しを試みた際にシェアオフィスの着想を得る。エコフレンドリーなオフィスを売りにした「グリーンデスク」創業を経て、10年にミゲル・マケルビーと共にWeWorkを共同創業。16年に「アメリカで最もリッチな40歳以下の起業家」 8位に選出される。