購入に関する決定は価格に左右されることを忘れてはならない。原油価格が高騰した1970年代後半から1980年代初頭にかけて、デトロイトの自動車メーカー大手が信頼性の高い小型車を発売できずにいる間、日本の自動車メーカーは低価格のそうしたモデルを米市場に投入、大幅なシェアを獲得した。今度は中国・韓国の大手メーカーによって、再び同様のことが起きる可能性がある。
・イノベーション
投資家たちは、企業が何か特別なことを行い、世界を変えると約束することに目がない。故スティーブ・ジョブズが多くの人に「守護聖人」のように考えられ、テスラのイーロン・マスクCEOが聖人に次ぐ「福者」のように受け止められるのはそのためだ。
クリーンな電力を生み出し、充電し、それで自動車が走るという考えには大賛成だ。気候変動に対応し、地球を救うために私たちがすべきことだ。だが、路上を走る車のうち少なくとも3台に1台が燃費の悪いSUVではなくEVだという状況になるまで、“革命”が本当に起きたと確信することはできない。
・魅力
確かにテスラには魅力がある。シリコンバレーでも他の地域でも、テスラに乗っていることはステータスシンボルだ。
しかし、ファッションにおけるあらゆるものがそうであるように、魅力の“賞味期限”はどちらかといえば短い。そして、テスラの車が魅力的である一方で、競争は非常に激しい。競合と呼べるモデルは、他に30近くもある。
イノベーションによって、テスラはエネルギーと輸送の分野におけるグーグルになれるかもしれない。ただし、株価が事業の実質的なビジネスロジックではなく希望的観測を反映するものである限り、ボーダーラインを定めておく必要がある。多額の資金を必要とする競争の中で生き延びるためには、ケインズの言うアニマル・スピリット以上のものが必要だ。