そもそもは19世紀末に起きたボーア戦争のときに、兵士が懐中時計に革ひもをつないで使ったのがはじまりだともいわれているが、現代に繋がる市販の腕時計となると、1904年にカルティエがブラジル人の飛行家、サントス・デュモンのために製作した「サントス」が最初ということになっている。
その後、14年に勃発した第一次大戦を経て腕時計は進化していくのだが、懐中時計が主流という時代は続き、一般的な腕時計の普及は20年代に入ってからになる。そして、そこにはムーブメントを収めるケースが大きく関わってくるのである。
つまり、腕時計を紹介する際に必ず掲載されるスペックの最初の方にクレジットされるケースは、とても重要なスペックであり、腕時計の発展にも大きく関与しているのである。
20年代という時代は、抽象的な幾何学図形が特徴のアール・デコ様式が世界を席巻しており、腕時計はこれに大きな影響を受けることになる。20年代から30年代にかけて、ケースデザインにアール・デコ様式を取り入れた角型やトノー(樽)型のモデルが数多く作られているのだ。
そこには、カルティエ「タンク」、ジャガー・ルクルト「レベルソ」など、角型の傑作時計と呼ばれるものが数多く含まれている。そして、それらが人気を呼び、腕時計普及への起爆剤となったのである。
また、ケースの性能そのものに飛躍的な進歩が見られたのも、この時代であった。腕時計は直接腕に着けるので、汗や埃にさらされるという大きな問題があった。汗や埃がケースの内部に入ると故障の原因となるからだ。
それを解決したのが、26年のロレックスによる“オイスターケース”の開発である。素材の塊をくり抜き、それをシェイプしてケースを作るというこの画期的な手法は、その後の腕時計作りに大きな影響を及ぼした。
いまでは当たり前となっている防水性能も、ダイバーズウォッチの進化も、この開発があってこそのこと。腕時計の歴史上、もっとも価値のある開発のひとつといえるものだ。
現在、我々が着けている腕時計のケースのベースとなるものは、20~30年代にはほぼ出来上がっている。そして、それらは腕時計を発展へと導く大きな流れを作ったのである。
腕時計にとってムーブメントなどの機能はとても重要なものだが、腕時計選びの方向性を決めるのは、今も昔もやはりデザイン、素材という要素をもつケースなのである。
ROLEX / オイスター パーペチュアル デイトジャスト 41
1926年に発表され、その堅牢さで世界を驚かせた元祖「オイスターケース」をはじめ、このモデルには、ロレックスの偉大な発明の歴史が詰まっている。[自動巻、SSケース、41㎜径 問:日本ロレックス 03-32165671]
JAEGER-LECOULTRE / レベルソ・クラシック・ミディアム・デュオ・スモールセコンド
ジャガー・ルクルトを代表する反転式角型ウォッチ「レベルソ」の新作。表のダイヤルは、時分針とスモールセコンドを装備。裏には第二時間帯表示とデイ/ナイト表示が。[自動巻、SSケース、42.9×25.5㎜ 89万円 問:ジャガー・ルクルト 0120-79-1833]