アップルの「自前主義」が生む、半導体メーカーの悲惨な末路

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今年発売が予定されるiPhoneの10周年記念モデルは、デザインの大幅リニューアルが予想されている。最新の報道によると、本体内部も外見に劣らず大きく刷新されるという。

ロイター通信によると、アップルは新型iPhone向けに、バッテリーの持ちを改善するための独自技術を開発中だという。これが事実だとすると、同社はPMIC(パワーマネジメントIC)のサプライヤーであるダイアログ・セミコンダクター(Dialog Semiconductor)との契約を打ち切るかもしれない。

「我々は、アップルがPMICを自主開発し、少なくとも一部においてダイアログ製のチップを置き換える方針であることを示す強力な証拠を入手した」とバンクハウス・ランペ(Bankhaus Lampe)のアナリスト、Karsten Iltgenは話す。Iltgenは、匿名の業界関係者の情報として、アップルがミュンヘンとカリフォルニアでパワーマネジメント設計センターの立ち上げを進めていると述べている。

また、ロイターは情報筋の話として、「アップルは、ミュンヘンでダイアログの優秀なエンジニアをものすごい勢いで引き抜いている」と報じている。

アップルは、今回の報道に関してコメントを拒否している。ダイアログは、事業への影響を否定したものの、株価は一日で36%下落した。2016年には、同社の売上高の70%以上をiPhone向けが占めている。

ダイアログの株価は、iPhone 7とiPhone 7 Plusへのチップ供給や、10周年記念モデルへの期待感から2倍に急騰していた。ダイアログは、iPhoneへの過度な依存から脱却するため、2014年にオーストリアのセンサーチップメーカー、AMS AGと合併交渉を行ったが破談に終わった。また、2015年にはチップメーカーのAtmelの買収を試みたが、これも失敗に終わっている。

現在、市場はアップルによるサプライヤー変更のニュースに対して過敏になっている。先日、アップルがグラフィックチップを独自開発することが明らかになると、GPUのサプライヤーであるImagination Technologiesの株価は70%下落した。

アップルの思うがままに支配される企業

一連の出来事は、iPhoneブランドの影響力の大きさを改めて浮き彫りにした。サプライヤーにとっては、アップルに部品を供給できれば莫大な利益を手にすることができるが、長期的には大きなリスクとなる。サプライヤーは、アップルのハードとソフトを一体型で提供するモデルに組み込まれると、同社に事業の命運を握られることになる。かつてiPhoneのサプライヤーだったCSR、PortalPlayer、Sigmatel、Wolfsonはアップルから契約を打ち切られ、その後他社により買収されている。

アップルはiPhoneやiPad、iPodに搭載されているAシリーズSoCも自社で設計している。また、指紋認証機能のTouch IDを開発したAuthenTecを買収したほか、グーグルマップに対抗するためにアップルマップを強化した。現在は、現在半導体メーカーのクアルコムと特許料返還を巡って法廷闘争を繰り広げている。

アップルの自前主義は、消費者に対しては大きなメリットを提供している。Touch IDは指紋認証技術をリードしており、Aチップのシングルコア性能も競合製品を圧倒している。アップルマップですら、最近では使い勝手が良くなってきている。

PMICについても、アップルの垂直統合型モデルの新たな成功事例になるかもしれない。消費者にとっては、バッテリー持ちが改善されるのであれば、技術を開発した企業の名前など関係ない話なのだ。

編集=上田裕資

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