ー歴史家の目から見て、米経済史に影響を与えたゲームチェンジャーを数人挙げていただけますか。
モキール:まず、発明家・起業家のトーマス・エジソンだ。人類が待ち望んでいた電力(の事業化)で工場の稼働などを可能にした。2番目が、起業家アンドリュー・カーネギー。効率性の高い鉄鋼会社を経営し、汎用テクノロジーである鉄鋼(の生産)に貢献した。
次が、パソコン革命を起こして人々の生活を一変させたビル・ゲイツだ。ヘンリー・フォードもリストに入る。大量生産・モジュール方式で自動車の価格を下げ、修理やメンテナンスなどを容易にした。
『成長の文化』で書いたが、フランシス・ベーコン(英哲学者)やアイザック・ニュートン(英科学者)、アダム・スミス(英経済学者)など、世界を変えた「文化的起業家」もいる。ベーコンは、「産業科学の哲学者」として、知を生産に、科学を産業に生かすべきだとし、ニュートンは、宇宙など観測された現象の数的証明に成功。スミスは、各国間の貿易をゼロサムゲームではないとし、経済政策の重要性を説いた。
ー「ゲームチェンジャーの時代」はくるのでしょうか。
モキール:もちろん。20〜25年後に主要なゲームチェンジャーになりそうなイノベーションの一つが、3Dプリンティングによる自宅でのモノづくりだ。たとえばシャツなら、色もサイズも素材も自分で設定する。すべてがカスタムメイドになり、買い物など不要になる。産業革命以来のゲームチェンジャーだ。
産業革命では、家内から工場にモノづくりが移ったが、「新産業革命」では、製造業が工場から家庭に戻る。産業革命前と違うのは、人ではなく3Dプリンティング、つまり、機械がモノづくりの主役になる点だ。
今後、ゲームチェンジングな発明は、さらに増える。(テクノロジーと科学の進歩で)オポチュニティーが何倍にもなるからだ。同時に、オポチュニティーを生かすことが、より重要になる。
生活も生産も仕事も一変し、想像を超えたものになると確信している。半世紀前、コンピュータが何もかもをこなす日がくるなど予想できなかったように、遺伝子工学やバーチャルリアリティー、ロボットなどでも同じことが起こる。
たとえば、ゲノム編集(遺伝子改変)で新種の穀物を作り、自然への依存度を減らすことができれば、人類にとって飛躍的進歩だ。こうしたターニングポイントが、ゲームチェンジャーの時代を告げるヒントになろう。
ジョエル・モキール◎ノースウエスタン大学・テルアビブ大学教授。専門は経済史。技術革新やテクノロジーの未来にも精通。