翌朝、我々は早速胸を躍らせながら、この名門ラヒンチのティーグラウンドに立った。同伴のメンバーは、現地に別荘を持つパトリックである。彼はアイルランド人だが、ラヒンチに恋をして、週末用の家をコースのそばに購入したとのことである。コースを回りながら家を指して、すぐ近くだという意味で「just a pitching distance.(ピッチングで届くくらいだよ)」とウインクしてくれた。
コースの前半は海を左に見ながらやや山沿い方向にスタートしている。やはり最初の感動は砂丘越えの4番であろう。グリーンはまったく見えないブラインドホールだ。
多くのプレイヤーが途中の砂丘に打ち込むため、頂上にフォアキャディがいて、ボールの行方を見てくれている。まるでハリー・ポッターの映画に出てくる魔法学校の先生のように愛嬌いっぱいのフォアキャディだ。彼が、先にいるプレイヤーがホールアウトしたことを知らせる鐘を鳴らしてくれて初めて、ショットが打てる。さらにナイスショットをすると「good one」と褒めてくれるのはうれしいことである。
コース後半は、リンクス特有の海沿いにホールがちりばめられている。難しさは変わらないものの、素晴らしい景色に息を呑んでいるうちに、あっという間に最初のラウンドが終了した。
トム・モリス・シニアがこの美しい砂丘の原形を最大限に生かして設計した意図を初めて感じられたようで、19番ホールのバーでパトリックとおいしいアイルランドラガーを呑みながら、しみじみとリンクスのよさを感じた。燻し銀のような名コースである。
ラウンドを終わった後にそのよさがぐんぐん伝わってくるコースはそうは多くない。本当の名コースの味わい方を初めて教えてくれたコースだと、自分の中のベスト3にランキングさせているコースでもある。当然我々は、ドリンクをご馳走してくれたパトリックにお礼をしつつ、午後のもう1ラウンドに向けてティーオフしていくのであった。
死ぬ前に、ぜひ何回も再訪したいと自分自身に決めているラヒンチ。やはりゴルフを愛する者として、“マストプレイ”の宝物であろう!
3人の名匠が改修を重ねた、アイルランドのベストコース
ラヒンチ・ゴルフ・クラブは、アイルランド島の南西端、北大西洋に面したマンスター地方のクレア州にある。3人の傑出したデザイナーが改修を重ねてきたオールド・コースは、全長6950ヤード、パー72。名物である6番・パー4をはじめとして、トム・モリス・シニアが「これまで見た中で最高級だ」と語った自然の地形を生かしてつくられたコースの数々は、難しくも美しい。
こいずみ・やすろう◎FiNC 代表取締役CSO/CFO。東京大学経済学部卒。日本興業銀行、ゴールドマン・サックスで計28年活躍。現役中から、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢・発起人、TABLE FOR TWO Internationalのアドバイザーなど社会貢献活動にも参加。お金のデザイン社外取締役、WHILL、FC今治のアドバイザー。