消費者の「片付けるべき用事」にイノベーションのカギがある

ハーバード・ビジネス・スクール、クレイトン・クリステンセン教授 (Photo by John Lamparski/Getty Images)


米国や欧州では、多くのメーカーが電気自動車を製造しているが、価格がガソリン車と変わらないため、新たな成長を生み出せないでいる。成長の可能性が眠っているのは、市場の底辺なのだ。これが「破壊的イノベーション」であり、そこには片づけるべき用事がある。

現在、日本では成長が見られないが、日系メーカーが、手ごろな価格で手に入れやすい電気自動車の製造に成功すれば、破壊的イノベーションを起こせる。中国や東南アジアの国々で車を持っていない人たちが、こぞって買うからだ。

─日本企業にもチャンスはありますか。

もちろん。大いに可能性がある。だが、完全に独立した子会社を立ち上げなければならない。非常に小さいシンプルな電気自動車の製造は、間接費が発生しないよう、従来の車とは異なるコスト構造を必要とするからだ。高級車レクサスをデザイン・製造する既存プロセスで、シンプルな電気自動車を作ることはできない。

─最後に、破壊的イノベーションを目指す日本企業やビジネスパーソンに向けて、真のゲームチェンジャーになるにはどうすればいいか、メッセージをもらえますか。

まず、経営陣は、組織の在り方を理解する必要がある。社内で意思決定者がどのように決断を下しているか、どのようなプロセスが用いられているか。つまり、組織がどのように機能しているかを把握することだ。それがわかれば、自社でできることとできないことが見えてくる。

次に、イノベーターに必要な能力だが、『イノベーションのDNA─破壊的イノベーターの5つのスキル』(2011年)で書いたように、(1)「関連づける力」、(2)「質問力」、(3)「観察力」、(4)「実験力」、(5)「人脈力」がカギになる。これは、イノベーターとして成功するための強固なスキルであり、何年たっても、その重要性は同じだ。どんなこの基本原則は今後も変わらないだろう。

イノベーションには、これがあれば、すべてが解決されるなどという「シルバーブレット(特効薬)」はない。西部劇では悪者が一瞬にして倒され、あらゆる問題がパッと消えてなくなるが、イノベーションは違う。経営陣は特効薬を求めがちだが、そんなものはない。

5つのスキルなど、基本原則を追求していけば、成功を手にできる。人間は変わっていくものだが、原則は生き続ける。


クレイトン・M・クリステンセン◎ハーバード・ビジネス・スクール(HBS) 教授。専門は企業経営論。なぜ巨大企業が技術革新によって衰退へ導くのか。その理由を解き明かした初の著作『イノベーションのジレンマ』(1997年)により、破壊的イノベーションの理論を確立。他著作に『イノベーションへの解』『イノベーション・オブ・ライフ』などがある。

文=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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