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ダイバーシティ推進のシンプルな理由

入山:ユニリーバは「ダイバーシティ」に関しても、非常に先進的な企業として知られています。なぜダイバーシティの推進がうまくいっているのでしょうか。

山崎:ユニリーバは、オランダのマーガリン・メーカーの「マーガリン・ユニ」とイギリスの石鹸メーカーの「リーバ・ブラザーズ」が統合し誕生した企業。英蘭に本社を置き、長きにわたって国や文化を超えてビジネスを展開してきた企業なので、「ダイバーシティ」という言葉が一般化する以前から、「ダイバーシティ」と現在呼ばれるような概念を重視してきました。そのため、何か具体的な人事制度によって推進したことはありません。

日置:つまり、ユニリーバには「ダイバーシティ」の発想が、組織の運営や商品開発など、ビジネスを行う上での必然性から根付いたということでしょうか。

山崎:そのように認識しています。ダイバーシティという「属性の多様性」は、組織に「意見の多様性」を生み出します。

経験則では、違う意見を持っている人が、議論をする場にいた方が、アウトプットのクオリティーが高いと思っています。

入山:日本では、「ダイバーシティは、イノベーションのために重要だ」というシンプルな事実が、日本企業の間ではまだ認識されていません。女性活躍推進法の制定により、日本企業にもダイバーシティ推進室がトップダウンで次々と誕生しましたが、当の担当者が推進する理由を理解できていないことも多いのです。

山崎:日本企業にそうした認識がないとは、想像もしていませんでした。組織内の知的生産性を高めるために、ダイバーシティを推進しない理由はないと思っています。ただ、ビジョン不在のダイバーシティではうまくいきません。「意見が集約できない」「組織としての方向性が決まらない」など、ダイバーシティ自体にはリスクがあるのも事実です。そこで、新しいプランや変化に意味合いを与えてくれるビジョンという一つの軸が社内にあれば、ダイバーシティはビジネスを前進させる原動力になると思います。

入山:山崎さんから見たユニリーバの強みはどこにあるのでしょうか。

山崎:スケールを生かした「ブランド開発」や「原料調達」は、非常に大きな強みになっています。「グローバルなユニリーバのスケールを生かすこと」と「現地の市場のニーズに応えること」のバランスの最適化は、経営上の大きな関心でもあります。

日置:どんな方針で、最適化を図っていますか。

山崎:過去10年から15年は、グローバルにやや重心がありました。スキンケアやデオドラントといった「パーソナルケア事業」では、現地法人に任せるより、グローバルにブランド開発・研究開発を実施していました。一方、最近はローカルへシフトしつつあります。背景には、デジタルを生かした新しいビジネスモデルなどを駆使し、マーケットシェアを獲得していくローカルの競合が登場したことや、非常に細分化されたローカルニーズへのスピーディーな適応が求められることがあります。

ブランドマネジメントや調達の仕組みといったグローバルに構築したものを失わずに、非常に素早く変わるローカルな消費者ニーズに対してどう的確に対応していくかが、今後の経営課題です。

日置:時代の流れに合わせて、グローバルにも、ローカルにも戦略的に重心を自在に移動できるのは、長年の試行錯誤で築かれてきた経営やインフラや蓄積されたノウハウがあるからこそ。また、ユニリーバといえば、伝統的にローカルに任せる経営スタイルをとってきた企業。早期にグローバルに展開した後は、一貫してローカルに適応した経営を行ってきましたよね。

山崎:そうです。グローバルに幅広く展開しながら、現地の人材に経営層のポジションを開放し、ローカルに根差した経営を目指してきました。同時に、前任者・横田貴之が英国本社のグローバルヘアファイナンスヴァイスプレジデントに就任したように、リーダーシップと経営能力さえあれば、グローバルなキャリアが開かれています。

入山:ユニリーバ発展の歴史は、バートレット&ゴシャールの「I-Rフレームワーク」に則して考えると、ローカルに最適化した「マルチナショナル型」から、ローカルへの適応とグローバルな規模でも統合を高水準で実現する「トランスナショナル型」への進化。国内市場の縮小に直面し、グローバル展開を目指す日本にとって、良い手本になるはずです。

日置:グローバルとローカルが常に交錯する中、「ビジョン」や「ダイバーシティ」といった発想が必然的に誕生し、今では組織のDNAとも言える存在に昇華している。そこに、強さの源泉があると言えるのではないでしょうか。


やまざき・かずひで◎ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス代表取締役。1976年富山県生まれ。98年東京大学法学部卒業後、ニッポンリーバ(現ユニリーバ・ジャパン) 入社。2016年7月より現職。ユニリーバは1930年創設、世界190カ国で展開し、従業員数17万人。16年12月期の売上高は約527億ユーロ、営業利益78億ユーロ、当期純利益55億ユーロ。

文=山本隆太郎、写真=ヤン・ブース

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