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2017.04.11

東芝に見る「海外進出における企業統治」の教訓

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“東芝の不適切会計”とその後の混乱は必ずしも対岸の火事ではない。日本企業は、海外進出における企業統治という観点から考える必要がある。


東芝がアメリカ原子力事業関連の巨額損失を抱えて苦境に立っている。東芝は2015年、不正会計(数年にわたるPC事業や半導体事業における利益水増発覚で、2248億円の決算修正)事件があきらかとなり、歴代3人の社長が辞任、東証では特設注意市場銘柄に指定された。

海外事業進出の歴史的失敗

この不正会計問題後、人員削減をすすめ、ソニーへのイメージセンサー事業売却やキヤノンへの東芝メディカルシステムズ売却など、優良事業を売却して、利益を出してきた。しかし、16年12月27日には、アメリカの原子力事業におおきな「数千億円」にのぼる損失を抱えていることを公表した。同時に、儲け頭である半導体事業を分社化、株式の一部売却の方針を発表した。その後、市場に伝わる情報によれば、この原子力事業の損失は、すでに数年まえから認識されていたものの、これまで損失処理をしてこなかったのだという。

東芝は06年、54億ドル(約6210億円、115円/ドルで換算)で、米原発炉メーカー、ウェスティングハウス(WH)を買収した(その後追加出資あり)。そのあと、11年に福島第一原子力発電所(原発)事故があってから、世界的に新規原発建設が難しくなったという不幸な事情が発生してはいたものの、損失開示を怠ってきたことは“不適切会計”といわれている。

WHは、単体で12年度に9億ドル超、13年度に4億ドルと総額13億ドル(約1600億円)の減損処理を行っていたという。しかし、親会社である東芝はこれを開示していなかった。今回、開示したことにより、損失額は7000億円規模に大きく膨らんだ。東芝の利益水準(図1)から見て、開示された損失額は桁はずれである。



東芝がWHの減損処理の必要性を先送りしたこともさることながら、WH(単体)が15年秋に買収を決めた(16年1月に買収を完了)原子力発電所の建設を手がける会社、CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を2億2900万ドルで買収していることも大きく響いている。おそらくこれはとんでもない高値掴みだったようだ。そもそもS&Wを買収するまえから、WHは赤字が続いていたわけで、S&Wに関連する損失の公表でも、今後さらに損失が増える可能性は残っている。損失の元を断ち切らずに、優良資産を切り売りしていったのでは、いずれ破綻することになる。

このような結果になったのは、東芝が買収したWHの経営をしっかりと統治していなかったことが原因だ。子会社であるWHによるS&W買収(しかも巨額ののれん代を上乗せした高値掴み)を、東芝本社はきちんと把握していたのだろうか。本来、縮小すべき子会社の事業を拡大するという、暴走を制御できない本社の企業統治能力はどうなっていたのか。海外事業への進出の失敗例として歴史に刻まれるだろう。

10年代後半は、80年代後半と00年前後のITバブル時代に続いて、3度目の日本企業による海外M&Aの隆盛期である(図2)。1980年代のM&Aの多くは失敗して、成功例は限られている。多くのM&A案件が、日本側の購入意欲で、高値掴みになった、これが第一の原因だ。さらに買収後に、先方の会社(子会社)に乗り込んで、必要な改革(人員カット、生産の合理化)を実現すべきところを、安易に先方の雇用を守ると約束して、企業統治を十分にできなかったことが、第二の原因である。企業戦略の重要な部分(資産・負債の精査、グローバル戦略、親会社・子会社の役割分担)については買収時にきちんと話を詰めておくことが重要だ。このあたりは、よくいわれていることだ。


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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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