そして、ムニエは2016年4月、パリのサンジェルマン・デ・プレ地区に「こだわりラーメン」をオープンした。それから1年、ビジネスは順調だ。
おいしいラーメンを作るのは簡単なことではない。フランスでは生麺を手に入れることができなかったため、ムニエはまず畑を購入。小麦を栽培し、ラーメンの麺用に製粉してくれる製粉所を探した。製粉といえばパン用というフランスで、協力者を見つけるのは困難だった。ようやくたどり着いたのは、バーガンディーで創業から150年以上がたつ古い製粉所を経営する一家だった。
ムニエの店には、彼が「製麺機のロールスロイス」と呼ぶ日本製の製麺機がある。大型車が買えるほどの値段だが、それを買うのが「夢だった」という。自家製麺に合わせて使う食材は、ミシュランの星を獲得している多くのレストランが使うものだ。三つ星シェフのアラン・デュカスなども、同じ店から食材を仕入れているという。
提供するのは、風味が良く濃厚で、この店ならではのラーメンだ。店の外には毎晩のように行列ができる(パリでは非常に珍しいことだ)。ラーメンは伝統的に、手早く済ませる食事とされているが、フランス人は食事の後も気が済むまでおしゃべりをしたり酒を飲んだりするのが習慣であるため、なかなかテーブルが空かないのだ。
だが、並んでいる客には悪いと思いながらも、ムニエは店内の客に席を立つよう促すことはない。「それが、私たちの文化だから」だ。
ニューヨークのラーメン・ラボでも、大勢の客がムニエのラーメンのために列を作るかもしれない。それに対応できるようにと、十分な量の醤油や黒ゴマ、ビーガン向けの「かぼちゃ」のラーメンも用意している。
終わることのないラーメン作りの道についてムニエは、「調理するごとに、ラーメンに対する理解が深まる」と語る。「ラーメンの進化は止まらない」のだ。