ビジネス

2017.04.04

ウーバーの成長の原動力、カラニックCEOの「問題解決型」思考とは

ウーバー・テクノロジーズ共同創業者兼CEOのトラビス・カラニック(写真=ティム・パネル)


ウーバーの中国からの衝撃的な撤退のニュースからも、カラニックがより成熟したことがわかる。

「人からやめておけと言われれば言われるほど、人々の知らない何かがここにはあるんだと思えた」

かつて中国に取り憑かれ、のめり込んでいたカラニック。サービスは爆発的に広がり、60の都市に拡大し、チームの従業員数は800人に増加。2年を経ずして、中国はウーバーの全世界の配車回数の3分の1を占めるまでになった。

しかし、中国でのライバル企業・滴滴出行と激しいインセンティブ競争を繰り広げるなか、ウーバーは中国にあまりにも多くのリソースを費やすことになってしまった。16年夏、カラニックは最終的に、ウーバー・チャイナを滴滴へ売却することに合意したのだった。

ただ、カラニックはこの件に前向きだ。「今回、ウーバーは壮大な目標を掲げて、猛烈に努力した。その結果、絶対できないと思われていたビジネスも、実現する余地はあることを知らしめられたとは思うよ」

中国での戦いを終え、損失のピークを越えたとみられるいま、ウーバーは新しいことを何でも始められる。空前のキャッシュを保有する同社なら、米国、ブラジル、インドといった重要な市場への集中、輸送に関わる新サービスの展開も可能だ。
 
一方のライバル企業はどうか。リフトは米国の大都市でのサービスではウーバーに負けていないと主張。同社CEOのジョン・ジマーによれば、全配車の90%は大都市で行われるという。カラニックは早急にリフトの相乗りサービスを打ち破ろうと、急成長中のウーバー・プールについて、多くのジャムを開催。今やサンフランシスコでは、ウーバーの配車の40%が相乗りだ。

「都市生活の改善」を掲げるカラニックにとって、プールは特に重要なサービスだ。市の認可したタクシーの独占が崩れるとしてウーバーを批判してきた市当局も、道路上のクルマの数を減らすという発想には賛成。ニュージャージー州サミットでは、駅の駐車場を拡張する代わりに、ウーバーを利用する通勤者に助成金を出すことを決めたという。突如として「善玉」になったウーバーへの世間での評価も、長期的に見れば変化していくだろう。

自動運転車への移行でも、効率第一の発想で臨むウーバー。16年8月、グーグルの自動運転車開発者たちが立ち上げたスタートアップ「オットー」を6億8000万ドルで買収することを発表した。

自動運転は「実現するどうか」ではなく、「いつ実現するか」が問題だ。実現するタイミングで、ウーバーは多くの資産を抱えない経営から、巨費を投じて大量の車両を送り出す経営へ舵を切ることになる。リフトと提携するGMやフォード、テスラ、そしておそらくはグーグルやアップルなども、ライドシェア専用の自動運転車を発売するとみられ、「車両製作部門をもたないことがウーバーのアキレス腱だ」との指摘もある。

ただ完全自動化が実現した暁に、一気に自動運転車を供給する必要のある他社に比べ、ウーバーは、段階的な導入が可能。従来のクルマと自動運転車が共存する状態では、ウーバーが有利なのは変わらないだろう。
 
いずれにせよ、自動運転車が登場したときには、カラニックが現在構築している「移動性のためのOS」は、これまで以上に重要なものとなる。

「物質的な世界における、人間性や人間の行動。これらは、定量化されるべき問題なんだよ」
 
冷徹で美しく、挑み甲斐のある課題こそが、今後も“ウーバーの社内論理学者”のやる気をかき立て続けるのだろう。


トラビス・カラニック◎ウーバー・テクノロジーズ共同創業者兼CEO。1976年、米ロサンゼルス生まれ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)在学中に検索エンジン「スカウア」を創業。続けて立ち上げたファイルシェアリング企業「レッド・スウッシュ」を2007年にアカマイに1870万ドルで売却している。09年にギャレット・キャンプと共に、配車サービスアプリ「ウーバー」を起業。東京を含む、世界526都市で利用できるサービスに発展させた。

ウーバー◎2009年創業の配車サービスアプリ。空き時間を利用してドライバーとして副業ができる点や、カード情報などを登録するだけで簡単に配車サービスが使える手軽さが世界的にヒット。680億ドルの評価を受けるほどに成長した。

編集=山本隆太郎、翻訳=町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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