米国で規制緩和の「ネットの個人情報保護」 人権団体らは大反発

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米下院において、インターネットのプライバシー保護規則を撤廃する法案が決議される見通しとなった。同法案は、先週上院を通過している。プライバシー保護規則はインターネットサービスプロバイダ(ISP)が顧客のネット利用状況を無断でトラッキングしたり、データを外部に販売することを防ぐことを目的にオバマ政権下で成立したが、施行はまだだった。

「ISPは膨大な加入者のデータを分析して儲けるビジネスモデルを構築している」と、プライバシー保護団体、Center for Digital Democracyのエグゼクティブ・ディレクターであるJeff Chesterは話す。この法案は、米連邦通信委員会(FCC)が今後類似のプライバシー保護規則を定めることを禁じているため、プライバシー擁護団体が懸念を示している。

ITメディアのThe Vergeは、プライバシー保護規則が撤廃された場合の影響について次のように書いている。「コムキャストやAT&T、Charterなどの大手ISPは、顧客から許可を得ることなく個人情報を高額で販売するようになる。ネットユーザーにとって最大のプライバシー保護になるはずだったルールが消滅するばかりか、FCCはそれを永遠に復活させることができなくなる」

Vanity Fairによると、法案が下院を通過した場合、ISPは顧客の財務情報やアプリの利用状況、ネットの閲覧履歴などを入手することができるという。Vanity Fair はまた、ISPが消費者や企業からの反発を考慮して、加入者が開示情報を最小化できる「オプトアウト機能」を自主的に設置するケースが出てくるかもしれないとしている。

アメリカ自由人権協会(ACLU)の法律顧問であるNeema Singh Gulianiは、米議会におけるプライバシー保護規則撤廃の動きについて「大変失望している。上院は、米国民のプライバシーに対する権利よりも、大手ISPの利益を優先させた」とコメントしている。

プライバシー擁護団体の電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)も、一連の動きを「ネットのプライバシーの保護において極めて甚大な損害」とし、今後サイバー犯罪の脅威が増す可能性があると警鐘を鳴らしている。同財団は、公式声明の中で次のように述べている。

個人のネット閲覧履歴で儲ける大手ISP

「ISPはインターネットのゲートキーパーであり、利益を得るために加入者に無断で行動履歴を販売することは許されない」

FCC委員長のアジット・パイは規制緩和派として知られ、共和党系のFCC委員時代には、ISPを対象としたプライバシー保護規則に反対を表明していた。パイは、消費者のプライバシーを保護する新たな方法を模索するとしているが、差し当たってはISPの障害となっている現行ルールの撤廃に全力を挙げている。パイは先週、記者会見で次のように述べている。

「FCCは連邦取引委員会が定めた枠組みとの整合性を図らずにプライバシー保護規則を成立させてしまった。オンライン広告企業に許されることが、ISPには許されないというのは、企業に対する規制として一貫性を欠き、消費者の利益を損なうことにもつながる」

オレゴン州選出の上院議員Ron Wyden(民主党)は、Ars Technicaとのインタビューで次のように述べている。「プライバシー保護規則が廃止されると、ISPの選択肢が一社しかない消費者にとっては、自分の閲覧履歴が販売されるのを承知でISPと契約するか、インターネットを全く使わないか、どちらかの選択を迫られることになる」

プライバシー擁護者たちは、電子フロンティア財団のサイト上で法案に反対を唱えているが、そうした行動もトラッキングされているのかもしれない。

編集=上田裕資

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