ビジネス

2017.03.30

「あれ、NHKいなくていいのかも?」 一億総カメラマン時代の番組作り

NHKが新たに立ち上げたプロジェクト「東京ミラクルシティ」


そして、作品作り本番。アプリを搭載したスマホをユーザーに渡して、あとは待つしかありません。僕は本気で不安でした。動画は集まるんだろうか。撮影に関しては素人の方たちの動画を素材にして、本当に作品になるんだろうか。でも、それはすべて杞憂に終わりました。集まった動画は5500本。3作品あわせて100人が参加してくれたので、1人平均50本以上投稿してくれたことになります。

で、その動画を見ていくと、どれもものすごく面白い。外国人の方が見た東京の正月は、僕の知らない東京の姿がたくさん映っていましたし、20代の若者のやばい世界は本当に笑っちゃうくらいやばかったし、女子中学生たちの平凡なはずの日常はどこまでも瑞々しいんです。

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3監督の作品もさすがの一言でした。関さんと長添さんは、強烈なカットとゆるいカットを使い分け、絶妙なビートとリズムを刻む音楽にのせて、東京の新しいミュージックビデオを作ってくれました。そして長久さんは、書き下ろしのオリジナルの脚本を用意し、フィクションとノンフィクションを織り交ぜながら、女子中学3年生から見た“当たり前だけど特別な”東京の日常を描き出してくれました。

僕は傍から作品が生まれるのを眺めながら、ずっと考えていました。「これ、NHKいなくてもいいな」って。このモノづくりの形に関して限定して言えば、本当にいらないんですよ、NHK。撮影機材はスマホでいいし、撮影者は一般の人ができるし、監督は外から連れてくればいいし。これまで自分たちにしかできないと思い込んでいた番組作りが、意外とそうでもないということが分かり、僕はぐらぐらと自分の存在意義を揺さぶられました。

でも次第に「この流れは決して悪くない」という思いの方が強くわき上がってくるんですね。番組作りをNHKだけで抱え込むよりも、むしろどんどん開放していった方が面白いなと、今回のプロジェクトを通して強く感じました。

たしかに自分たちテレビの強みと思う部分をユーザーに渡してしまうことは怖いことでもあります。慎重に行わなければいけない部分もたくさんあります。でも、やってみるとたくさんの発見があるんですよね。

僕の一番の発見は、こんなに楽しそうにユーザーが動画撮影したり、投稿してくれたりするんだということでした。正直、とても驚きました。とにかく女子中学生も外国人も、めちゃくちゃ楽しそうに撮影しているんです。で、彼らの動画を眺めながら僕が思ったのは「僕らは“文化祭の実行委員”でいいんだな」ということでした。僕たちテレビ屋さんが主役になるのではなく、裏方に徹して、みんなが思いっきり楽しめる舞台を作ればいいんだなと。

振り返れば10年ほど前までは、テレビが情報の出し手(主)で、ユーザーは情報の受け手(従)という関係が基本形だったように思います。しかし、スマホ時代に突入し、誰もが表現者、発信者になる、“一億総カメラマン時代”の到来も近いと言われる中、テレビが従来の役割を果たせばいいと思っているのであれば、僕はちょっとつまらないなと思います。

テレビは、番組に限らず、まだまだ面白くて刺激的な“舞台”を生み出せると思います。僕も今回は100人規模の文化祭の実行委員でしたが、みんなで思いっきり楽しめました。そしていつの日か、5000万人規模の文化祭を盛り上げる実行委員になりたいですけど…まずは「東京ミラクルシティ」の無事の門出を祝う打ち上げの企画を考えなければいけない感じです(やばい)。

番組を作らないNHKディレクターが「ひっそりやっている大きな話」
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文=小国士朗

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