ビジネス

2017.03.29 08:00

世界的企業は今、なぜ「デザインx経営」なのか?


組織文化の変革に必要な5つの手段

今回、3社を取材して感じた1つ目のポイントは、「プラットフォームの価値の最大化」という観点です。米IBM、独SAP、米セールスフォース社は全社レベルで顧客体験改善のためにユーザー共創によるデザイン思考を導入し、自社のプラットフォームの価値を高めるために、顧客をはじめ良いパートナーを巻き込んでいく手段として使っています。つまり、プラットフォームに新しい価値を乗せていきたい企業が、次々と分野を超えた共創環境に取り組んでいると言えます。

2つ目のポイントは、社内のサイロ(組織の壁)を超えたり、社外との共創を促進するファシリテーター的な役割を果たす存在としてデザイナーを再定義している点。そして、イノベーション戦略を実行する戦略部隊とみなして大規模にデザイナーを採用、育成する動きが見られることです。デザイナーを大規模採用したIBMでは、共創を促進できるデザインシンカーと形に落とし込めるデザイナーの双方を合わせてデザイナーと呼んでいます。

こうした動きは、社内外を統合できる共創ファシリテーターとしてのデザイナーシンカーをどれだけ揃えられるかが、プラットフォーム企業にとって競争優位性となってきていることを意味しているのではないでしょうか。

3つ目のポイントは「共創による文化をいかに組織に落とし込むか」という点。そして「組織文化をどのように作っていくか」という点だ。デザイン思考による顧客起点のプロセスやプロトタイプ作りという原則をOSとして活用しつつ、3社ともに自社の事業や組織に合わせてカスタマイズしています。組織文化作りという点でも、米IBMは米系企業の特色を生かし大量採用や新部署といった大胆なリストラクチャリングを仕掛けています。

それに対し、独SAPは労働法上の規制が厳しく日本型雇用に近いため、10年以上の時間をかけ全社に浸透させました。セールスフォースは「Igniteチーム」を発足させ、グローバルトレーナーが世界規模でトレーニングを実施しています。

こうした3社の取材から見えてきたのは、組織文化の変革に必要なツールとその施策群です。以下の5つです。

(1) 自社の事業領域や事業プロセスに合ったデザインプロセスの整備とデザインシンカーの組織作り

(2) 変革媒介者(カタリスト)としてのファシリテーター人材の採用・育成

(3) 変革文化を伝播するための研修プログラム

(4) 全社共通のデジタルツールや可視化・プロトタイピングの支援チーム

(5) 顧客とプロトタイプの価値を体感した上で、具体化する展示場・実験スペースのデザイン

筆者が参加したシンギュラリティ大学のエクスポネンシャル(等比級数的)に事業を伸ばすデジタル時代の企業経営の考え方に「エクスポネンシャル・オーガニゼーション」があります。

企業が持つべき10の経営資源、外部経営資源として(1)オンデマンド型人材、(2)コミュニティ、(3)アルゴリズム、(4)外部資産の活用、(5)エンゲージメント─。内部経営資源、(6)インターフェイス、(7)ダッシュボード、(8)実験、(9)自律型組織、(10)ソーシャル技術─にも「デザイン×経営」の流れは合致しています。

世界的企業の新しい動きは、デジタル、オープンといった創造文化を組み合わせながら、組織文化を変えるために、“現代の「変革の武器・鉄砲」”である「デザイン思考」という共創を促進するためのテクノロジーを、“自社流の鉄砲隊に変えていく”取り組みと言えるでしょう。そして、一発逆転の手段というよりも、じわじわと文化・風土を変えることで「イノベーティブな組織」へと変え、有機的な経営の変革の引き金を引くことを目的としていると言えるのではないでしょうか。こうした動きから日本企業が学ぶべきことは多いと思います。

佐宗邦威 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.33 2017年4月号(2017/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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