ビジネス

2015.01.13

ジェフリー・ガンドラックはいかにして「新債券王」になったのか?




2014年9月、「債券王」と謳われたビル・グロースのピムコ退社は、ひとつの時代の終わりを象徴する出来事だった。しかし、資産運用の世界でその余韻に浸る者などいない。すでに「戴冠」を待つ百戦錬磨の猛者が控えているからだ。

 30年にわたって債券ポートフォリオを運用してきたガンドラックは、壮大な邸宅で自らの存在を誇示している。(中略)しかし、より重要なのは、彼が5年足らずで築き上げた投資運用会社ダブルライン・キャピタルが最高の状態にあることだ。

 そのガンドラックに、債券運用大手パシフィック・インベストメント・マネジメント(ピムコ)の共同創業者ビル・グロース(70)が面会を申し込んできたのは、2014年9月のある日のことだった。「債券王」として名高いグロースが、「新債券王」でとでも呼ぶべきガンドラックを訪ねてきたのだ。それはまさしく、「シェークスピア的」としか言いようのない光景であった。(中略)
ガンドラックとグロースが組めば、間違いなくピムコからダブルラインへの資産移動を早めただろう。だが、ガンドラックは「会談」が物別れに終わったことにホッとしている。(中略)


クビにした親会社への痛快な復讐劇
権限がいかに大切か、ガンドラックは痛いほどわかっている。事実、彼は資産運用会社トラスト・カンパニー・オブ・ザ・ウエスト(TCW)で09年までの24年間、エースの座にいた。強気で聡明な資金運用を行い、市場を読むのに長けていると言われてきた。専門分野は、不動産担保証券だった。彼が09年まで10年間にわたって運用したミューチュアルファンドは、同業他社のそれよりも高い実績を上げ続けた。彼は05年には、46歳でTCWの最高投資責任者(CIO)に就任。09年には、運用資産1,100億ドルのうち700億ドル程の運用を任されている。ガンドラックの年収は4,000万ドル以上だった。
しかしTCWの成功にどれだけ貢献しようと、所詮、ガンドラックは雇われ人にすぎず、株式も保有していなかった。彼はTCWの最高経営責任者(CEO)になりたかったが、親会社である大手金融機関ソシエテ・ジェネラルと、TCWの創設者であるロバート・デイは、彼がその職にふさわしくないと考えていた。

「ジェフリーはバカにがまんできないし、考えて話さない人には容赦しないからね」と、ダブルラインでグローバル先進国債券マネジャーを務めるボニー・バハは話す。TCWでも19年間ガンドラックと一緒に働いたバハは、彼の毒舌ぶりを知り尽くしている。

 満たされなかったガンドラックは、別のキャリアを考えるようになった。彼は、ウエスタン・アセット・マネジメントなどの競合相手から誘われたこともある。ピムコは、グロースの後継候補と考えていたこともあった。

 すると09年12月4日金曜日、ニューヨーク証券取引所で市場が閉まった直後に、TCWが先手を打ってガンドラックを解雇した。機関投資家が資金を引き上げてガンドラックとともに去ってしまうのを避けるため、TCWは同時に、競合のメトロポリタン・ウエストから債券マネジャーを獲得した。ガンドラックの部下たちは、月曜日の朝に出勤すると、自分たちのデスクにメトロポリタン・ウエストのトレーダーたちが座っている、というシュールな光景を目の当たりにした。

 報酬の大幅な増額を約束されたにもかかわらず、ガンドラックを信奉する40人の同僚がTCWを辞め、1カ月もしないうちに、ガンドラックは「ダブルライン・キャピタル」を立ち上げた。14年前に同じように、TCWから追い出された経験のある債券投資会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者ハワード・マークスとブルース・カーシュが、ガンドラックを支援してくれた。TCWは、債券部門の最高の運用責任者を失い、300億ドルの資産も同社から逃げていった。

 ガンドラックは、会社のコンピュータから情報を盗んだ疑いや、ポルノやマリフアナ所持のかどでTCWに3億ドルを超える額の訴訟を起こされた。(中略)
2年も続いた訴訟の間、ガンドラックと彼の部下たちは耐えた。他社を上回る実績を上げ続けたダブルラインの資産は瞬またたく間に膨らんだ。TCWとガンドラックが和解した11年頃には、ダブルラインのファンドはめざましい成功を収め、資産は500億ドルになろうとしていた。

 TCWに解雇されてから3年後の12 年12月4日、ガンドロックは、TCW本社のロビーにあるレストランを借りきって、ど派手なパーティを開いた。いまや裕福になったダブルラインの社員たちに、光り輝くシャンパンと、フィレミニョンやマグロのタルタルステーキが振る舞われた。TCWの社員たちがビルから出るときに見えるように、「ダブルライン500億ドル達成!」と書かれた垂れ幕が、バーの上に掲げられた。(以下略、)

マット・シフリン

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