IBMでは、今後のさらなる成長のために、デザイナーとエンジニアの比率を「1:30(2013年)」から「1:8」を目指し、デザイナーを1000以上採用してきた。彼らは、共創を促進できるデザインシンカーもデザイナーと呼ぶなど「新たなデザイナー像」を打ち出している。同社で初めて、デザイナーとしてエグゼクティブに就任したパウエル氏に、組織変革におけるデザイナーの役割について聞いた。[前編はこちら]
佐宗 :IBMがデザイナーを1000人以上も雇用するのは、大きな投資です。なぜ、こうした投資を決断出来たのでしょうか。
パウエル : ここで大事になるのは「デザイナーが何人必要なのか」という質問です。4年前、このプログラムを設計している時に我々が行ったのは、デザイナーとエンジニアの比率に注目することでした。当時、IBMでは、デザイナー1人に対して、エンジニアは30人〜50人近くいました。これはデザイナーにとっては辛い比率です。このような場合、デザイナーは孤立し、最良なデザインが実施される環境ではありません。
では、良い比率とは──。これは最近のテック企業でもよくされる質問ですが、スタートアップやソーシャルメディア企業、モバイルアプリ企業では、デザイナー1人に対してエンジニアが3〜5人という比較的両者の数が近い値になっています。
IBMでは、デザイナー1人に対してエンジニア8人〜10人が健康的な比率だと思っています。では、どうすれば、「1:30」を「1:8」にできるのか。ここまで“問い”を落とし込めれば、あとは計算です。そこで我々は1000人〜1500人のデザイナーを新たに雇用することにしました。
佐宗 : なるほど。デザイナーとエンジニアの良いバランスを目標としていたのですね。
パウエル : はい。これまで1000人の新しいデザイナーを雇用し、買収した企業のデザイナー数百人も迎え入れたため、もうすぐ1500人に到達し、バランスのとれる状態になります。
佐宗 : こうしたデザイナーの増員やスタジオ構築などといった組織変革の中で、最も苦労した点はどこでしょうか。
パウエル : 苦労したことは沢山ありました(笑)。どのように行動を変化させるか、というどの企業も必ずぶつかる壁です。しかし、忘れてはいけないのは、IBMが自ら何度も変革してきた歴史を持っているということです。100年以上企業が存続できているのは、企業の変革に対する寛容さ、組織としての忍耐強さ、回復力の強さがあってこそです。これは我々にとっては、強みになりました。
IBM社員が懐疑的であっても、企業の歴史を振り返ると、メインフレームコンピュータからパーソナルコンピュータ、ビジネスソフトウェアからクラウドやコグニティブコンピューティングへの変貌を見ることができる。だから、IBMは素晴らしい企業なのです。この論理を使って説得してきました。
もう一つの論理は、世界の急速な変化という“外”へ目を向けることです。IBMは人々がより良く仕事ができるようにするためのテクノロジー企業ですが、組織や働き方も急速に変化しているため「新しい見方」をする必要がある。そして、人を理解し、人のための体験を作ることに長けているのは、デザイナーなのです。この2つの論理を組み合わせて、説得力を高めていきました。
佐宗 : その際に対象にした、世界の急速な変化として、具体的な事例をお教えください。
パウエル : 例えば、現在の労働人口に占めるミレニアル世代(2000年前後に成人になった世代)の割合は50%を超えました。この世代はデジタル・ネイティブであり、働き方に対して新しい態度をとっています。誰もが9時〜17時までオフィスで座って働いて帰宅したいわけではない。その働き方はとても流動的で、日常に織り込まれています。そしてそれは、常時持ち歩くデバイス(端末)を通して実現されています。