しかし私は、こうした動きは一時的な流行にすぎず、現在のテクノロジー革新は前代未聞のものであるという見方を裏付ける証拠はないと考えている。
雇用なき景気回復
ロンドン大学経済政治学院センター・フォー・エコノミック・パフォーマンス(CEP)の経済学者チームが1月に発表した論文は、こうした議論にさらなる証拠を提供している。
論文によると、景気回復に伴う年間雇用増加率は1990年以前に約5%だったが、1990年代以降はそれを大幅に下回っていた。その理由としてかねて論じられているのが、テクノロジーの発達だ。つまり、景気が回復するに従い、ルーティンワークの担い手の多くが機械に取って代わられたという説だ。
だが論文では、先進各国で起きているとされる「雇用なき景気回復」の唯一の要因が自動化にあるのかを検証するべく、17か国・28産業分野で1970~2011年に起きた71回の景気回復に着目し、雇用や付加価値といった景気後退に関するデータをまとめた。
景気回復を読み解く
論文ではまず、それぞれの景気回復事例を分析し、近年に何らかの根本的な変化が起きていたのかを探った。結果、景気回復に伴う国内総生産(GDP)成長率は近年減少傾向にあるものの、雇用増加率はさらに劇的な低下をみせており、両者には相関関係がないことが分かった。ただし、米国は唯一の例外とみられる。
続いて、ルーティンワークの度合いが高く自動化などの技術が導入されやすい小売業や製造業などの産業分野に着目し、景気回復中に他分野との違いがあったかについて調べた。
結果、ほぼ全ての国で、こうした分野は不景気のあおりを比較的受けやすく、また景気回復も遅かった。しかし興味深いことに、この傾向は長期にわたって共通しており、近年で特に状況が悪化していたわけではなかった。
ただし、ここでも米国だけが例外で、雇用回復は鈍かったのはルーティンワーク率の高い産業分野だけでなく、テクノロジー革新を経験した他の産業分野でも同じだった。