経営者として、男として私をしつけた「坂本龍馬の生きざま」

「竜馬がゆく」(文春文庫)

各界のCEOが読むべき一冊をすすめる本誌の連載「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、葬儀会館を運営するティアの冨安徳久代表取締役社長が事あるごとに読み返すという「竜馬がゆく」を紹介する。


高知県桂浜の小高い丘には、遥か太平洋を見つめる坂本龍馬の銅像があります。ここ土佐は、龍馬が生まれてから剣術修行で江戸を目指すまでの18年間を過ごした場所です。

厳しい身分制度に対する無力さを感じていた龍馬は、土佐を離れた後、吉田松陰や高杉晋作、勝海舟らと出会い、世界観を広げ、新しい日本への想いを強めていきました。

私が、龍馬の人生を描いた歴史小説『竜馬がゆく』を読んだのは、15歳の時です。将来何をしたいのかもわからず、悶々と高校生活を送っていた私の心に、「人として生まれたからには、太平洋のように、でっかい夢を持つべきだ」という、龍馬の言葉が鋭く突き刺さりました。身近に、夢に向かって真っすぐ進んでいた姉がいたことも、気を急いた一因だったのでしょう。

その後、大学時代に経験したアルバイトで、葬儀の仕事が「大切な人を亡くしてどうしたらいいかわからず、不安な時に、亡くなった方をきちっと送って差し上げる。そのお手伝いができた時、心から感謝してもらえる仕事なのだ」と気づき、社員になることを即決しました。

人生の転換点に気づかない人が多い中、本書を読んでいたからこそ、大切なターニングポイントを見過ごさずに済んだのだと思います。私が37歳の時に創業したティアは、現在、全国で80を超える葬儀会館を運営し、年間で、1万件を超える葬儀を扱っている企業へと成長してきました。古い慣習が残る業界で、ブラックボックスだった価格を透明化し、地域の方々と親交を深めるため会館を開放するなど、これまでの葬儀業界の常識を打ち破り、革命をおこしてきました。

しかしながら、新しいことをおこす時は、今でも必ず壁にぶちあたります。そんな時、私の脳裏をよぎるのは「龍馬だったらどうするのか」ということです。

龍馬は、明治維新の3年前の1865年、長崎で貿易商社「亀山社中」を設立した経営者でもあります。私自身、男としてだけでなく、経営者としても「坂本龍馬の生きざま」にしつけられているのだと感じています。私は、事あるごとに桂浜に足を運び、今年で14回を数えます。遠くを見つめる龍馬像に、創業を決意したことや無事に株式上場できたことなどを報告し、同時に、自分の信念を確認しています。

残念ながら、日本の人口は減少し、先進国の中でも成長率の低い国のひとつに甘んじています。本気で上に行こうと思っても、かろうじて上向く時代に、このままでいいと思ってしまえば、それは衰退することを意味しています。こんな時代だからこそ、龍馬のように強い志を持ち、前進し続けることが大切なのです。

title: 竜馬がゆく
author: 司馬遼太郎
data: 文春文庫


とみやす・のりひさ◎1960年、愛知県生まれ。79年、大学入学式直前、葬儀のアルバイトで感動し、葬儀の世界に入る。97年にティアを設立し、現職。2006年に名証セントレックスに上場、14年東証・名証一部に上場。著書に『ぼくが葬儀屋さんになった理由』など多数。



内田まさみ=構成

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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