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2017.03.17

活況のカンボジア、トランプ大統領を望んだフン・セン首相の思惑

カンボジアのフン・セン首相 (Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images)

昨年の米国大統領選におけるドナルド・トランプ氏の勝利は世界中を驚かせた。しかし、世界の指導者の中には、大統領選の前にトランプ氏への支持を表明した人々がいる。ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩委員長、ジンバブエのムガベ大統領、そしてカンボジアのフン・セン首相である。

米国大統領選が行われた昨年11月8日の数日前、フン・セン首相は、講演において、「私はトランプ氏が勝利することを熱望している」「トランプ氏はビジネスマンだから、大統領になれば世界は平和になる」「(対立候補の)ヒラリー・クリントン氏は国務長官だったとき、当時のオバマ大統領にシリアへの攻撃を進言した」と述べた。

フン・セン首相がトランプ氏を支持した真意は明らかではない。しかし、現在のカンボジアの状況をみると、トランプ大統領の誕生がフン・セン首相率いる人民党政権の統治に対して追い風になっているとみることができる。

人民党政権の強権的な政治運営

カンボジアでは、来年7月29日に総選挙が予定されている。前回2013年の総選挙では、フン・セン首相率いる人民党が過半数を確保したが、議席数を大幅に減らした。その背景には、30年にわたるフン・セン首相の長期政権への不満、内戦を経験していない若年層の選挙権獲得といった事情があるとみられる。

来年の総選挙を控えて、近年、与野党間の対立が激しくなっている。人民党は、総選挙での必勝を期して、様々な手段で反対派の勢力を削ごうとしている。

本年2月20日、人民党は、政党法の改正法案を下院で可決させた。改正政党法は、政党が国家の治安に影響を及ぼす行為を行うことを禁止しており、違反した場合、最高裁判所を通じて、解党を命じることができると定めている。

これに先立つ2月11日、最大野党である救国党の党首であったサム・レンシー氏が党首を辞任し、離党すると発表した。サム・レンシー氏は、長年にわたり野党の指導者としてフン・セン首相率いる政府を批判してきた人物であり、反体制派を代表する政治家であった。

これまで何度となく名誉棄損の罪などに問われてきたが、2015年11月、逮捕を避けるためにフランスに亡命。昨年12月には虚偽の文書をフェイスブックに掲載したとして禁固5年の有罪判決を受けた。

こうした状況において、フン・セン首相は政党法を前述のとおり改正する意向を示した。これを受けて、サム・レンシー氏は、自身の有罪判決を理由に救国党が解党させられることを避けるべく、党首の辞任と離党を決断したとみられる。

サム・レンシー氏の党首辞任に伴い、副党首であったケム・ソカ氏が党首に就任した。ケム・ソカ氏は、サム・レンシー氏と並び立つ有力な野党政治家であり、かつては野党人権党の党首を務めた。2012年にサム・レンシー氏の政党と合流し、新たに救国党を結成した。

ケム・ソカ氏も、長年にわたり政府を批判してきた人物であり、昨年、売春の強要の容疑がかけられ、出廷命令を拒否したことから有罪判決を受けた。その後、シハモニ国王が恩赦を与え、フン・セン首相との会談が実現したように、ケム・ソカ氏とフン・セン首相は歩み寄りを見せている。もっとも、野党側の動きによっては、人民党がさらに規制を強める可能性もある。

この他にも、近年、反対派に対する抑圧的な動きが目立っている。2015年10月には救国党議員2名が下院議会庁舎前で暴行を受ける事件が発生。昨年7月には政治活動家のケム・レイ氏がプノンペンで射殺された。内戦終結後のカンボジアでここまで暴力的な事件が起こることは極めてまれであり、事件は大きな衝撃を与えた。

これを受けて、数千人規模の抗議デモが発生し、反体制派の数名が国外に逃亡。さらに、2015年にはNGOの活動を規制する法律も制定されている。

カンボジアを取り巻く国際環境の変化

なぜ、近年、このような人民党政権による強権的な動きが目立つようになったのか。その背景には、カンボジアを取り巻く国際環境の変化があるとみられる。

まず、カンボジアは、この数年の間に、政治・経済両面において、中国との関係を大きく深化させた。
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文=石井順也

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