それがA.ランゲ&ゾーネ「ランゲ1」である。
この「ランゲ1」は、第2次世界大戦後、東ドイツ政府に接収されたことから、休眠を余儀なくされたA.ランゲ&ゾーネが、40数年の時を経て復活した際に、その第1弾として発表されたモデルのひとつである。1994年10月のことだ。
その登場は衝撃的であった。ダイヤルが、時分計が右側にオフセットされ、秒、曜日など、すべての針は重なることがない。そして、11時位置といえる場所にアウトサイズデイトと呼ばれる大型の日付表示のための大きな窓が2つ開けられている。どれもが時計界では新しい試みだった。そして、それらがバランスよくレイアウトされたダイヤル。とても斬新だが、端正という言葉も当てはまる不思議な腕時計の誕生だった。
「ランゲ1」の発表は、当然ながらA.ランゲ&ゾーネの復活でもあったため、この情報は大きな話題となって世界の時計ファンの知るところとなり、その衝撃的なデザインは瞬く間に世界の時計ファンを席巻。魅了していったのである。
以降、「ランゲ1」は、デュアルタイムやパーペチュアルカレンダーなどの機構を搭載した複雑機構のモデルやケースを一回り大きくした「グランデ ランゲ1」。さらには、ダイヤルレイアウトを左右逆転させた自動巻きモデルなどを次々に発表していき、A.ランゲ&ゾーネの象徴的コレクションとして、また時計界においてもっとも人気のある腕時計のひとつとして、確固たる地位を築いていった。
そんな「ランゲ1」が一昨年、誕生20年目にして初のリニューアルをおこなった。外観の変更は、わずかに細くなったベゼルのみで、ケース径も従来通りの大きさである。印象はそれほど変わらない。一番の変更点は、おそらく手をつけないであろうと思われていたムーブメントであった。A.ランゲ&ゾーネは、誰もが完成されていると思っていた「ランゲ1」の心臓部をリニューアルするという決断を下したのである。
では、なぜA.ランゲ&ゾーネは、完璧と思われていた「ランゲ1」のムーブメントに手を付けたのだろうか? その答えのヒントは、A.ランゲ&ゾーネの歴史のなかにある。
A.ランゲ&ゾーネの創業者アドルフ・ランゲは、宮廷時計師のなかでも最高の評価を受けるグートケスの元で修業し、それをベースにフランス、スイスなどで修行をつむことで、その技術をさらに磨いていった人物。つまり、最高峰の時計技術をさらに高めていった結果、誕生したのがA.ランゲ&ゾーネなのだ。
現状に満足せず、さらに良いものを求める。そんな創業者の思考を連綿と受け継いできたA.ランゲ&ゾーネだからこそ、「ランゲ1」のリニューアルに踏み切ったのであろう。
リニューアルから2年と少しが経過した今日でも、新しい「ランゲ1」の評判はよく、依然として人気は高い。なので、リセールバリューも落ちない。さらに、リニューアルしたことで、わずか20年余の歴史ながら、名作として、旧モデルがヴィンテージ市場を賑わすことは間違いない。
もともと備わっている高い技術力と、より良いものを求める向上心がある限り、「ランゲ1」のトップセラー、そして、さらなる進化は保証されたようなものである。
A.LANGE&SÖHNE / ランゲ1
手巻き、18KWGケース、ケース径38.5㎜ 355万円(税別)問:A.ランゲ&ゾーネ 03-3288-6639